インタビュー|

「ベージュ アラン・デュカス 東京」小島 景氏インタビュー:『日々、喜んでいただけるお料理を』

「ベージュ アラン・デュカス 東京」で腕を振るう小島 景シェフ。地元である鎌倉市農協連即売所で野菜を仕入れて銀座に運び、国内外の厳選食材をふんだんに用いたエレガントなお料理を提供されることでも有名です。今回は小島シェフに、料理を作る上で大事にしていること、今の時代に求められるファインダイニングとしての食のあり方についてお話を伺いました。

フランス料理の「味」を鍛えた修業時代

―シェフは最初の渡仏では「アラン・シャペル」や「ピエール・ガニェール」にて研鑽を積み、ニースでフランク・セルッティ氏のもとで長年働かれていたそうですね。

フランク・セルッティは24歳でフィレンツェの「エノテーカ・ピンキオーリ」のシェフになり、「ル・ルイ・キャーンズ」でアラン・デュカスと働かれていましたし、当時から日本の雑誌に載っていたほど有名な人です。
実は、私はもともとイタリアに行きたかったのですが、たまたまフランスに行く機会があって渡仏しました。当時はフランクが31~32歳の頃だったと思うのですが、ニースにある彼のお店に食べに行ったんですね。そこですごく感動してしまって、絶対ここで働きたいと思いを伝えて、フランクのお店で働くことになりました。
2人でずっと働き通しの中で、料理を一から教えてくれたのはフランクだと思います。フランス料理の根本的な部分は味で、私は日本人だからこそ味が分かっていなければだめ、とにかく味を見ろと。

―帰国の後に、再びモナコの「ル・ルイ・キャーンズ」でセルッティ氏と働かれ、副料理長を務められましたが、そのきっかけは?

日本で仕事をしていて色々な悩みが生まれたり、自分に不足している部分があるなと感じて、もう一回フランスに戻りたいという気持ちがありました。具体的に何かをやりたいという気持ちはなく、とにかく「戻りたい」。
当時アラン・デュカスが舞浜に「Spoon」というお店をオープンするということで、フランクから「今何やってるの?」と連絡がありました。ちょうど何もやっていない、と答えると、「デュカスが舞浜の店をオープンするので、手伝ってほしい」と。分かった、手伝う、と言ったら、まずパリに来いと言われました。
「59ポワンカレ(59 Poincare)」という当時三ツ星のお店をデュカスがやっていて、そこで待ち合わせをしていました。ちょうどメインダイニングの大階段から、デュカスがフランスの俳優と降りてきて、すごい存在感でしたね。

彼の事務所でこれまでのキャリアや目的について色々話しました。フランクと5年働いた上でまた一緒に働きたいというと驚かれましたが、「ル・ルイ・キャーンズは素晴らしいお店だから、いいだろう」と了承してもらい、モナコに行きました。
既に36歳である程度経験があったんですが、入った瞬間にえらいところに来ちゃったな、と後悔したほど苛烈で衝撃的でしたね。皆仕事ができたし、自分がどれくらいできるのか、皆が見てくるのがプレッシャーでした。
今まで自分がやってきた10年が、「ル・ルイ・キャーンズ」での1年に匹敵するほど、濃厚な5年でしたね。あの経験がなければ今はもちろんないですし、入った頃と比べると人間が変わったような気がするほどです。

―「エステール/パレスホテル東京」のマルタン・ピタルク・パロマーシェフから、小島シェフとは電話でよくお話されると伺いました。デュカス・パリの若手シェフとは当時の経験なども踏まえてお話されますか?

彼らが一番知りたいのは、食材について。どこから仕入れているとかというやり取りをよくしていて、食材のアドバイスは多いですね。
デュカスが求めるのは、むしろ料理人の個性。その人が何をやって何ができるか、どんな料理を作ってくるのか、そういうところに重点を置いています。
店ごとにコンセプトが違うので、深いアドバイスをするというよりは、彼らがどうしていきたいのか、というところが大事だと思います。

誰がいつ来ても、喜んでいただける店になるために

―「ベージュ アラン・デュカス 東京」のコンセプトはどのように捉えていらっしゃいますか。

来ていただいた方に喜んで帰っていただく、それしかないと思います。
いつもお客様が喜んでいるかがすごく気になるし、それにはどうしたらいいか?なんですけど、やるべきことをやるしかないんだろうな、と思います。
清潔で掃除の行き届いた空間の中、料理でおもてなしをし、タイミングよく食事をしていただいて、良い時間を過ごして喜んでいただく。
例えば自然を表現するとか、銀座らしい都会的な料理……ということよりも、良い食材を仕入れて、正確に調理して、お出しして、きちんとおもてなしをする。どうすれば誰がいつ来ても喜んでいただける店になるのかを考え、日々繰り返している感じです。

―満足度をより高めるのは、シェフのお料理はもちろん、メートル・ドテルの方やソムリエなどスタッフの呼吸だと思います。コミュニケーションはどのように取られていますか?

支配人、ダイニングマネージャー、メートル・ドテルやソムリエ同士が、日々のブリーフィングで気が付いたところを指摘したり、それぞれの報告をします。ソムリエもその時に感じたことやフォローの依頼をして、思ったことを言い合っています。
タイミングはもちろん食器や銀器の清潔さなど、細かいところを常に見ていますね。

それでも、毎日同じ人数が来店して食べるものも分かっている、というわけではないので、日々その場で全く違いますね。アレルギー対応や別の食材に変えてほしいという要望から、最初に食べたものが美味しかったのでお肉のタイミングでまた出してもらえますか、とか。
失敗ももちろんあるので、その時のフォローや、いらっしゃる方の好みも違うので大変ですが、きちんと対応して喜んで帰っていただけるようにするのがプロなので。

―「ベージュ アラン・デュカス 東京」では、プリフィクスでその日の気分によってメニューを決められるのが嬉しい一方、厨房では大変ですよね。

場面によって全く違うので、ちょっとしたことでタイミングがずれてうまくいかなくなることもありますが、都度きちんと対応して、来ていただいた方に喜んでいただく。
そのためには「この店をどういう店にしたいのか、どういう風になっていくのか」を一人一人が互いにリスペクトしてそれぞれの気持ちを伝え合い、お店のルールを共有して日々努力することが大事ですね。働いている人が辞めたら、その下にいる人を育てて。総料理長に就任して10年経ちましたが、「ここまできたら良い」というところまで到達するのは、なかなか難しいですね。
そう考えるとやっぱり「ル・ルイ・キャーンズ」はすごかったんだなぁ、それが三ツ星なんだなぁと思いますね。

―小島シェフと言えば、新鮮な鎌倉野菜を始め、国内外の良い食材で料理をされている印象がありますが、新型コロナウイルスや天災と共に暮らす日本で料理をする中で、どのような挑戦をされていらっしゃいますか。

基本的には今まで通りお店を開き、喜んで帰っていただく。そこは変わりませんが、今回の新型コロナウイルスもこんなことになるとは思ってなかったですし、どういう風にしていくかは、その時にならないと分からないですよね。
今も毎朝全員が検温して、マスクを着用するとか、客席を離して対応することはもちろん、これまでお客様の前で仕上げて提供していたものをやめて全部キッチンで仕上げたり、味見用のスプーンを使い捨てにしたり、熱や感覚を感じるために素手で調理していたのをゴム手袋とマスクをして調理するなど、できる限りの対策に努めています。

また、気候変動による食材の変化もあります。年々温暖化で夏もこんなに暑くなって雨も降らないし。野菜も、今までと同じ栽培方法だともうだめらしいんですよね。今年はいつもならあるはずの野菜が手に入らない。手に入らない場合は、今まで使ったことがないものや別の野菜で代替して作ったりしています。夏の季節だと万願寺唐辛子やオクラ、冬瓜など、あまり使ったことがない野菜でできないか、という挑戦をしています。
手に入るものや新しいものに挑戦して美味しいものができれば、自分のレパートリーに加えるので。

最近は炭火も取り入れ始めました。炭で調理したフランス料理って面白そうだと思っていたので、自宅の七輪で試してみたんです。「ベージュ アラン・デュカス 東京」のキッチンはオール電化なんですが、このくらいのサイズなら使ってもいいよと言われて。
炭を探している時に、高知県の大月町の備長炭を見つけ出したので、役場に問い合わせて東京の問屋さんを教えていただきました。大月町は過疎が進む町ですが、炭製品として良質な備長炭を生産する仕組みを作っているところだったので、メニューにも「高知県大月町産備長炭で焼いた……」という感じで書いています。

ソルガム(キビ)も長野県七二会産というものを使っていますが、雑誌で見かけて気になったのでインターネットで生産者の方を探しました。サンプルを送っていただいて気に入ったので、こちらも「長野県七二会産ソルガム」とメニューに載せていたら、たまたま料理専門誌の取材で掲載されて、生産者の方が喜んでくださいましたね。

―シェフにとって「食」はどんなことを意味する言葉であるのか、お聞かせいただけますか。

こういうレストランであれば、ただ食べて美味しいだけでなく、料理やサービス、空間の中に、何かが伝わって感動していただけるような瞬間があり、喜んでいただけることを目指しています。
モナコにいた頃、お客様がキッチンに来た時に、この人たち本当に喜んでるな、と感じることがあって。(フランク・セルッティ)シェフはナチュラルな人で、自然と密接に関わっていた方でした。彼の料理を通してお客様も自然の土地や森を感じ、何を表現したいかを感じた時に、これだけ喜ぶのかなぁと。
独り立ちしてからも、料理を作って「あんな風にお客様を喜ばせたいなぁ」と思いますね。自分たちが出す料理は、全く言葉を介さずとも食べた人に何かが伝わり喜んでいただく、そういうものが理想です。そこまでいったら、やっていてよかったなぁと思いますね。

【編集後記】
「ベージュ アラン・デュカス 東京」での食体験は、食べることの素晴らしさや、食を通じて出会う人同士の一期一会の対話を感じさせます。
「喜んでいただく料理を作ること、それに尽きる」と繰り返し語られていた小島シェフ。食材探索はもちろん、技法からオペレーションに至るまで、惜しみない努力を積み重ねられているのは、ひとえに料理の歓喜への道を模索されているからなのでしょう。誰よりもそれを楽しむかのような好奇心旺盛な語り口に、食への愛情を強く感じました。

「ベージュ アラン・デュカス 東京」レストラン紹介はこちら!

お店の衛生対策について

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の拡大防止対策として下記の通り取り組み、お客様および従業員の健康と安全の確保に努めます。
■従業員の手洗い、消毒、マスク着用
■従業員の出退勤時の手指の消毒、検温等の健康状態のモニタリング
■扉、ドアノブ、受付、エレベーター、レストラン、化粧室等の入念な消毒
■客席数制限およびテーブル間の十分な間隔の確保
■従業員の人数制限
また、お客様には、ご来店時のアルコール消毒および検温へのご協力をお願い申し上げます。

フランス料理

ベージュ アラン・デュカス 東京

東京メトロ線 銀座駅 A13出口より徒歩3分

20,000円〜

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。若手の焼き物作家さんの作品を見に旅するのが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:La Barrique Tokyo / 実伶 / レストラン・モリエール
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / 福しま / エクアトゥール
・自分の会食で使うなら:六雁 / 中国飯店 富麗華 / ル スプートニク
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 鯖寿司にはまり中

このライターの記事をもっと見る
link

この記事をシェアする