インタビュー|

ミシュラン二つ星「赤坂 桃の木」小林武志シェフに聞く、新天地で切り開く中国料理の未来

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、施設の営業内容が急遽変更・休止となる場合があります。最新情報につきましては、当該施設まで直接お問い合わせください。

日本を代表する中国料理の名店「赤坂 桃の木」。2020年3月に創業の地・三田から「東京ガーデンテラス紀尾井町」へ移転した際には、グルメ界隈で大きな話題となりました。「KIWAMINO」では今回、日本を代表する中国料理の名店を率いる小林武志氏のもとを訪れ、独占インタビューを敢行! 移転のきっかけや、「知味 竹爐山房」での修業時代、料理への思いを語っていただきました。

グルメ界で大きな話題となった三田からの移転

―3月に三田から移転した際には、大きな話題になりましたね。まずはその理由からお聞かせください。

きっかけは、「一回見に来るだけでも」と不動産会社の方に言われたこと。そしたら、窓の外の景色がとても良くて、お濠の眺めも綺麗なんですよ。ああ、これはなかなか借りられるところではないなというのが正直な感想でしたね。

実はこれまでも誘致のお話はいただいていたのですが、その都度、常連のお客様からはやっぱり三田がいいよと言われていました。でも、今回ばかりは「あそこなら賛成だな!」と応援してくれる方が多くて。三田で15年もやったし、これを機に移転をしてみようということになったわけです。

これまで通りのお客様に加えて、紀尾井町や赤坂近隣にお住いの新しいお客様方にもお越しいただいています。年齢層は変わらず、50代くらいの方が多いですね。落ち着いた方に好まれるのは新天地でも変わりません。

名店「知味 竹爐山房」で研鑽を積んだ修業時代

―小林さんは、吉祥寺の名店「知味 竹爐山房」の山本豊さんのもとで研鑽を積んだことでも有名ですね。修業時代のエピソードをお聞かせください。

辻調理師専門学校を卒業して、すぐにお店で働きたいという思いが強かったんです。ただ、なかなか機会がなくて、8年間は講師をしていました。そろそろ潮時かなと考えていた時、山本さんが吉祥寺にお店を移転してスタッフも増やすということで、ご縁があって働かせてもらうことに。その頃のお客様の中には、今でもうちに来てくれている方がいらっしゃいます。

当時から、山本さんのところが東京で一番のお店でしたから、やっぱり憧れはありました。日中国交正常化は1972年でしたが、山本さんはその頃から中国に赴いて仕事をしていましたからね。時代が時代なので、普通では考えられないことです。名実ともに、料理分野での文化交流の第一人者でした。

「知味 竹爐山房」では、2年間ほどお世話になりました。今となっては、それが長いのか短いのか分かりませんが、料理からホスピタリティに至るまで、「桃の木」の礎につながるものを確かに学ぶことができたと考えています。師匠の山本さんは、料理は嘘偽りなく作らなくてはならないという信念をお持ちでしたが、それはそのまま自分の中にも受け継がれています。

―ノージャンルと言えば極端ですが、「桃の木」の料理は中国料理をベースにした柔軟な発想が持ち味だとよく言われています。修業時代からの影響もあるのでしょうか。

そうですね。師匠の山本さんも、私自身もジャンルにこだわらないオールラウンダータイプでしたね。山本さんは中国料理全般に精通していましたし、私も講師をしていたので四川、広東と一つの地域にとどまらない知識を持っていました。

あとは、日本人の感覚で中国料理を作っているということも影響しているのではないでしょうか。薬味をそれほど使わず、油についても綺麗なもの、あるいは極力使わないで作ることもあります。重たさを感じない食後感が、他と違うと言われる理由の一つなのかもしれません。

山本さんの友人だったことから、際コーポレーションの中島武代表(当時)のもとで働かせていただく機会もありました。ちょうど四川から料理人が来ていた時期で、その方からも学ばせていただきましたね。

お客様のニーズに寄り添った料理を愉しんでほしい

―小林さんは、ワインにもこだわりが強いですよね。「桃の木」ならではの楽しみ方についてお聞かせください。

ワインについては、セレクトもワインリストの作成も私がやっていますから、どの料理とも相性が良いのではないでしょうか。お食事に訪れる際には、存分に愉しんでいただきたいですね。

お料理のリクエストをいただくことも多いんです。次回は魚介類、あるいは野菜を多めにとか。やはり、最初はスタンダードなコースを召し上がっていただきたいのですが、2回目以降はご希望を伝えていただければ、それを軸にメニューを組み立てていますね。お客様に提供したメニューは、「カルテ」として残していますから、結果的にこのお客様にはこういう感じ、この方にはこれをというように、お客様毎にカスタマイズされていくのです。

常連の方になればなるほど、素材から味も香りも、お好みの料理を愉しんでいただけます。それが叶うことが、「桃の木」の楽しみ方でもあると考えています。

三田のお店はオープンキッチンということもあって、お客様の様子が見えるじゃないですか。飲んでいるお酒も分かりますから、同じ料理でも少しずつ味を変える工夫をしていました。それがピッタリ合うと、喜んでいただけて、結果的にリピートしてくださるようになったのです。

―お客様に寄り添う姿勢は、洗練されたマーケティング戦略ですね。常連のお客様が多いことの理由がよく分かりました。

お客様が「桃の木」を育ててくれたのだと思います。15年前、お店を始めた頃は普通のエビチリや麻婆豆腐を作っていましたが、お客様から「桃の木」にしか作れないものを作ってよと言われることが増えて、その要望や思いに応えていった結果、「桃の木」ならではの料理が育ったのだと思います。

ただ、オープン初期の頃は本当に大変でした。初日の売上は10万円だけ。それはよく覚えていますね。一から始めたお店だから、その数字が良いのか悪いのかも分かりませんでした。初月はマイナス110万円、次月はマイナス80万円と、いよいよこれは潰れるなと腹をくくったものです。

好転したのはオープンして半年くらい。三田という土地柄もあって、口コミの影響が功を奏したのかもしれませんが、そこからリピートする方がどんどん増えていったのです。

お客様のニーズに寄り添うスタンスは、今でも変わりません。取材時にはどうしても「フカヒレ」や「パパイアのスープ」がメインになってしまうのですが、お客様に対して押し付けることは絶対にしません。自分が何かを表現したいという以上に、お客様の食べたいものを食べてほしい。その思いを実現するために、私は料理をしているのです。

レストランとしての完成度をもっと高めていきたい!

―移転から4か月ほど、新天地で挑戦したいことをお聞かせください。

チャレンジについては、レストランとしての完成度を高めていきたいですね。設えや空間の広さが変わった分、料理の見栄えとお皿、テーブルのバランスをより強く意識することが多くなりました。
三田時代はこぢんまりとしたお店だったので、料理の味にフォーカスしがちでしたが、移転後は料理とそれ以外の一体感をより極めていく必要があると感じています。そこをもっと工夫して、お客様に喜んでいただけるお店作りをしていきたいですね。

カトラリーやテーブルウェア類についても、新しいものを取り入れていこうと考えているところです。

―常連のお客様にとっても、非常に楽しみですね。Withコロナ時代ならではの工夫についてはいかがでしょうか。

その点でも、お越しになるお客様のニーズに応えていく必要があると考えています。実際にお店では、開店時間をお客様のご都合に合わせて柔軟に調整しています。
これまでは17時30分のオープンでしたが、今はご要望があれば開店を30分早めることもあります。また、ランチについても、ご予約に応じてご相談させていただいています。原則テイクアウトはしていないのですが、お客様によってはご要望を伺ったうえで対応するようにしています。

こういう時代だからこそ、お越しいただくお客様に合わせていく必要があると考えています。まだ手探りな部分もありますが、喜んでいただけるよう工夫を重ねていきたいですね。

余談ですが、実は三田時代と席数はほとんど変わっていないんですよね。当時が18席で、今は18から20席ほど。そういう意味では、ゆったりと寛げて、結果的に三密回避にも役立っているんです。

―天井も高く、洗練された雰囲気がありますね。窓外に広がるお濠も綺麗です。最後に後進の育成についてお聞かせください。

自分ができることに取り組んできました。近頃は「新富町 湯浅」の湯浅くんの活躍が目覚ましいですね。彼も「桃の木」で頑張ってくれた一人です。

また、少し話が広くなりますが、企業が主催する料理教室に毎月1回講師として登壇しているほか、企業の商品開発にも携わっています。最近ですと、大規模施設のレストランの監修も行いました。今後も、可能な限り自分ができることに取り組んでいきたいと思います。

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小林武志氏 プロフィール
愛知県出身。辻調理専門学校卒業後、同校の講師を経て「知味 竹爐山房」の山本豊氏のもとで研鑽を積む。際コーポレーションなどでの経験を経て2005年に東京三田・御田町に「桃の木」をオープン。『ミシュランガイド東京』二つ星、『ゴ・エ・ミヨ』では3トックと、その繊細な中国料理と厳選ワインとのマリアージュが美食家から高い評価を得ている。2020年には、お店を「東京ガーデンテラス紀尾井町」(赤坂プリンス跡)へ移転、店名も「御田町 桃の木」から「赤坂 桃の木」に。

編集後記
「レストランとしての完成度を高めていきたい」と語ってくれた小林さん。赤坂への移転を通じて、新しいアイデアが日々湧いているようです。また、インタビュー内でも触れていましたが、ゆったりした空間では本当にリラックスしたひと時を過ごせそうです。日本を代表する名店の進化を、ぜひ実際に訪れて確かめてみてはいかがでしょうか。

お店の衛生対策について

平素より赤坂桃の木をご愛顧頂き、誠にありがとうございます。
当店では、新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、お客様およびスタッフの健康と安全を考慮し、感染拡大の防止策を強化しております。

・従業員のマスク着用
・アルコール消毒液の設置
・間隔を空けてのお席のご用意

中国料理

赤坂 桃の木

東京メトロ丸ノ内線・銀座線 赤坂見附駅 7番出口 徒歩3分

20,000円〜29,999円

アクセス
住所: 東京都千代田区紀尾井町1-3 紀尾井テラス3F

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謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:和田倉、SENSE
・好きなお店:六雁
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

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