インタビュー|

「エステール/パレスホテル東京」マルタン・ピタルク・パロマ―に聞く「フランス料理を日本で築く面白さ」

2019年11月、「パレスホテル東京」が「デュカス・パリ」をパートナーに迎え、フランス料理「エステール」をオープンしました。話題のお店で腕を振るうのは、フランス料理界の巨匠アラン・デュカス氏から厚い信頼を寄せられている若きシェフ、Martin PITARQUE PALOMAR(マルタン・ピタルク・パロマー)氏。自然を感じる店内にて、シェフにコンセプトや日本での挑戦についてお話を伺いました。

日本の大地や海から生まれるものを、様々な工夫で表現

―フランス料理「エステール」のインテリアは、和紙や植物のオブジェから柔らかい温もりを感じます。「デュカス・パリ」をパートナーに迎えたレストランのコンセプトにも通じるのでしょうか?

「エステール」が大事にしているのは、自然に対する敬意です。2014年にミシュラン3つ星レストランの「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」で働いていた時は、「ナチュラリテ(自然性、自然に寄り添う)」というキーワードをお店で大事にしていました。

「エステール」では、日本各地から取り寄せた旬の大地(野菜)と海産物を中心に、素材そのものが持つ本来の味を大切にすることを重視しています。特に、たんぱく質を少なく、野菜をより多く使うことで、自然と調和する健康に良い料理を心がけています。
そのため、地方で作っている特定の食材に特化した小規模な生産者を探しながら、「エステール」でしか使っていない、「エステール」にしかないものをお出ししています。

―自然を大事にする小さな生産者の方は、どうやって探されているのでしょうか。

アラン・デュカス氏はこれまで30年ほど日本とつながりがあるので、彼に教えていただいたり、これまで培ってきた料理人仲間や知り合いに教えていただいたりすることもあります。

わたしがフランスやイングランドにいた頃から、「ベージュ アラン・デュカス 東京」の小島景シェフにはよく教えてもらいました。同じデュカス・パリグループなので、よく連絡を取っていました。
現職についてからは、日本各地を回り、自分で生産者を探しに行っています。

―素材にこだわりを持っていらっしゃる「エステール」ならではのお料理の楽しみ方は?

自然を感じる料理を楽しんでもらうのはもちろんですが、特に野菜が本来の自然な形を保つように心がけています。
例えば、マグロとシューラブ(コールラビ)という野菜を使った料理では、お客様が見たときに「マグロとシューラブ」だとわかるように。また、牛肉とナスを使った料理も、同じく「牛とナスが使われているんだな」と一目でわかるようにしたいと考えています。

また、ソースを作るにあたり、一般的なソースよりも濃度を薄く、さらっとしたものをご用意しています。「エステール」では、それぞれのお料理にすり鉢で作る「コンディメント」と呼んでいるものがあるのですが、ピューレと一緒に食べることで濃度が足されるため、ブイヨンのように軽やかなソースに仕上がっています。
全てのレストラン、全てのシェフにはそれぞれのパーソナリティーがあり、皆それぞれ個性があるかと思います。「エステール」はフランス人がフランス料理を日本で作るお店ですので、日本の味をどこかに取り入れたくて、日本の食材や技法も取り入れています。フランス人の私にとっては簡単なことではないですが、日本の味を使ったフランス料理を仕上げてみたいと思っています。

若きシェフが築く、「パレスホテル東京」的ワンチーム

―様々なホテルで働かれたシェフですが、「パレスホテル東京」のスタッフはどのような印象がありますか?

「パレスホテル東京」で働くメンバーは、チームのレベルがとても高く団結力があります。
レストラン内で、厨房は厨房、ホールはホール、という分かれ方ではなく、一つのチームを作り上げていきたいと思っています。厨房、ホール、マーケティングといった一緒に働くメンバーがカバーしあい、「エステール」が一つになって、同じ気持ちを保つことがとても大切ですね。
私も今回が初来日なので、文化の違いを知り、感じ取る必要があると思っています。

―Alain Ducasse(アラン・デュカス)氏との仕事の中で、印象的だったエピソードについて教えてください。

(左から、マルタン・ピタルク・パロマー氏、アラン・デュカス氏、ペストリーシェフのトマ・ムーラン氏)

皆さんがご存じの通り、アラン・デュカスは偉大なシェフで、私が学生の頃からとても有名でしたし、彼と働くことが夢でした。
彼は大きな山の頂点にいるような人ですが、一方でとても愉快な人でもあり、一緒に働いた10年間では楽しいエピソードが沢山あります。もちろん、料理に対してはとても真摯で、非常に並外れた方ですね。

私が「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」で働いていた頃、ちょうどオープンの3~4か月ほど前から、毎日料理を試食する日々が続いていました。
私は魚のソースを担当していて、いつもは50グラムのエシャロットを入れていたのですが、ある時10グラム足りずに40グラムで作りました。彼がソースを味見すると、「確かいつもはもっとエシャロットが入っていたはずだけど」と指摘されたので驚きました。
ソースにする食材で10グラムの違いは、毎回食べていてもなかなか判らないものなのですが、それに気づかれたんです。
彼はその料理を一口食べただけで、その料理がなぜ良いのか、なぜだめなのかを正確に判断することができます。本当に並外れた方ですね。

―シェフにとって、料理で最も大切なことはなんでしょうか?

最も大事なことは1つで、「上機嫌でいること」です。機嫌が良い状態を保つことで、良いユーモアが生まれ、良い空気が生まれ、良い料理が作れます。
なぜなら、料理は「心」だからです。私たちは情熱を持って料理をしますが、同時に料理を通して、その心や人生といったものを思慮しています。そして、それはシェフからチームのメンバーにも伝わるのです。だから上機嫌なことはとても大事で、その中で生まれた料理が良い料理だと思います。
いつも私はあまりフランス語を使わず、スペイン語や頑張って日本語にトライしたり、良いユーモアによって料理の良さを引き出そうとしています。
ストレスを感じるような職場では孤立してしまいますし、本当に良い職場であれば、ストレスを与えずとも皆が耳を傾けます。だからユーモアを通じて、チームメンバーをまとめていきたいと思っています。

―厨房にいるシェフには厳格なイメージを持っているので、驚きです!

もちろん味見の時は真剣に向き合います。ただ、20人弱のメンバーを1人で見るのは大変で、上機嫌でないと下のメンバーも頼みづらいと感じてしまいがちです。
自分のことは「シェフ」よりも「マルタン」と呼ばれることが多いですね。まだ28歳になったばかりなので。

―日本で今注目しているお店は?

自分が今興味を持っているのは、「INUA」。2つ星を獲得されましたが、シェフのトーマス・フレベルとはよく話します。コペンハーゲンの「noma」出身のシェフで、料理が非常に独創的、アイデンティティーがあると感じます。
3週間前には「レフェルヴェソンス」に伺いました。シェフの生江史伸さんは「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」で働かれていた方で、彼の料理は多くの野菜を使い、プロテインが非常に少なく、自分が今探求している理想の料理と同じ感覚を持っているように思いました。
もちろん、日本料理にも興味があります。「祇園ささき」でした食事はとても興味深かったです。
また「カンテサンス」や「エスキス」などにも伺います。時にはシェフと対話させていただき、日本のテロワールについて共有させていただいています。
また、「レ セゾン」(帝国ホテル)、「ロオジエ」、「トゥールダルジャン」のシェフは10年ほど前からの友人達です。

そして、「ベージュ アラン・デュカス 東京」の小島景シェフとはよく電話で話します。彼はアラン・デュカスチームでの経験も長く、日本人シェフとして「ルイ・キャーンズ」でも働かれていました。彼はこれまで多くのことに取り組み、打開されてきた方で、私にも多くのチャンスを作ってくれました。
シェフが他のお店に行って、そのお店のシェフの考えを知ることはとても重要だと思っています。自分はフランス人なので、クラシックなスタイルよりも、むしろ自分が知らない、未知なるものを探究していきたいですね。

【編集後記】
「エステール」とは、デュカス氏の生まれ育ったオクシタニー地方の言葉で「母なる大地」を意味するそうです。レストランのコンセプトである“大地と海の出会いの物語を紡ぐ場所”を築き上げる、28歳の若きシェフ。彼のみずみずしく豊かな感性と、人と料理に対する深い愛情を、短い時間から感じ取りました。
身体だけでなく、心に優しいものをいただきたい。そんな気持ちにさせてくれるレストランが、また一つ増えました。

***プロフィール***
マルタン・ピタルク・パロマー
1992年生まれ。フランスにてミシュラン2つ星レストラン「ルストー・ド・ボマニエール」をはじめとする星付きレストランにて修業を重ねる。2014年にミシュラン3つ星レストラン「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」へプルミエ・シェフ・ド・パルティとして移籍。2016年よりロンドンのミシュラン3つ星レストラン「アラン・デュカス・アット・ザ・ドーチェスター」でエグゼクティブ・スーシェフを務めた。

※この記事は2020年3月の取材を基に制作しました。

お店の衛生対策について

お客様ならびに従業員の健康と安全のため、
お客様に安心してお越しいただけるよう以下の対策を取っております。
【パブリックエリア】
・館内の定期的な消毒清掃を含む衛生強化
・館内エントランス、館内各所、化粧室内に消毒液を設置
・エレベーター利用者数の制限

【従業員】
・出社時の検温、手指の洗浄とアルコールによる消毒
・お客様応対ごとに手指を消毒
・マスクの着用および一部スタッフによる衛生手袋の着用

【レストラン】
・お席の間隔を空けて配置
・お食事、喫茶ともにご利用はご宿泊のお客様と予約者のみとし、
 ご予約時間も分散
・テーブル・椅子を消毒し、扉の手すり、ドアノブなどは30分毎に消毒
・お客様の入店時の消毒・検温のお願い
・朝食ブッフェの中止
・日本料理「和田倉」においては、接触回数を減らすためにも
 お膳・お重を中心としたメニュー構成に変更
・各店舗メニューはご利用毎に交換または消毒

フランス料理

エステール/パレスホテル東京

都営地下鉄三田線 大手町駅 徒歩3分

アクセス
住所: 東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスホテル東京 6F

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。若手の焼き物作家さんの作品を見に旅するのが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:La Barrique Tokyo / 実伶 / レストラン・モリエール
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / 福しま / エクアトゥール
・自分の会食で使うなら:六雁 / 中国飯店 富麗華 / ル スプートニク
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 鯖寿司にはまり中

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