インタビュー|

「帝国ホテル」東京料理長・杉本雄に聞く。帝国ホテルが追求するフランス料理とホスピタリティ

2019年4月、「帝国ホテル」の第14代東京料理長に就任した杉本雄氏。当時38歳という若さでの抜擢は、ホテルやフランス料理界でも大きなニュースとなりました。「レ セゾン」や「ラ ブラスリー」といった、「帝国ホテル」が誇る名店を統括する立場にある杉本氏。一休.comレストランがプロデュースするプレミアム美食メディア「KIWAMINO」では、杉本氏が考えるフランス料理の楽しみ方や、目指すホスピタリティをめぐって話を聞いてきました。

「帝国ホテル」と、フランス料理との出会い

―料理人としての原点について、教えてください。

「帝国ホテル」との直接の接点は、父の友人の結婚式に参加したことです。まだ小学生のころで、赤いふかふかした絨毯を踏んだ記憶が残っています。幼いながらも強く惹かれるものがありましたね。
もともと、料理を作ることが好きな子供でしたから、初めて食べた「帝国ホテル」のフランス料理に強い感動を覚えました。もう、ここで料理人になるんだって思いが芽生えました。
それで高校生の時、進路を決める時期になって直接「帝国ホテル」に電話をしました。どうしたら採用してくれますかって、人事の方に直接尋ねました。

―すごい行動力ですね。

通っていた学校が進学校でしたから、専門学校に進む生徒が少なく、料理人になる方法というのがよく分からなかったのでしょう。ただ、当時はちょうど就職氷河期だったこともあり、大卒ですらほとんど採用していませんでした。
でも、対応してくれた方が優しく「傾向として、武蔵野調理師専門学校から来ている料理人が多いかもしれない」と教えてくれたのです。それで武蔵野調理師専門学校に進んで、卒業後に「帝国ホテル 東京」の本館17階にある「レインボーラウンジ」で、サービスのアルバイトをすることになりました。そこで1年くらい勤めてから、「レ セゾン」に配属されました。

最大の収穫は、フランス料理の根幹を身につけたこと

―「レ セゾン」での経験が、海外に向かうきっかけになったと伺いました。

「帝国ホテル」では、外国催事という海外の一流シェフを招聘するイベントがあるのですが、その時にフランスの料理人の繊細さと、スピードを目の当たりにして、頭を金槌で叩かれたようなショックを受けました。1999年に「帝国ホテル」に入ってから4年が経ち、曲がりなりにも「レ セゾン」で働いていましたが、ショックが強すぎて「ああ、これはやっぱりフランスに行かなくてはいけない」と思うに至ったわけです。

―渡仏したからこそ身についたことは何でしょうか。

具体的な言葉では表現しにくい部分が多いのですが、現地でのフランス料理に対する考え方が身についたことでしょうか。

日本におけるフランス料理というのは、やっぱり誰かが伝えたものであって、それを原点に引き継がれたもの。現地のフランス料理とは、どうしても差異があると感じています。
調理や素材に対する考え方だけでなく、ソース一つとってみても、フランスで修業したからこそ身についたことは確かにありました。フランス料理の根幹というべき部分ですね。

―フランスでの修業時代、働くお店ごとに目的や期限を設定していたのでしょうか。

そこは意識していなかったですね。シェフの考え方や料理についてしっかり理解するまでは、修業を続けるべきだという考えでやっていました。
一通り理解するには、やはり時間を要します。アラン・デュカスやヤニック・アレノという名シェフのもと、「ホテル・ル ムーリス」には8年在籍しましたが、シェフの技術や考え方、料理について満遍なく理解するためには必要不可欠な歳月でした。
パラス級のホテルにある星付きのレストランでしたので、世界の名だたるVIPを相手に料理を作っていました。自分の中にある、フランス料理に対するゆるぎない思いは、あの時の一つひとつの経験が礎になっているという実感があります。

お客様の視点に立って、各レストランの個性を磨く

―4月から「帝国ホテル」の東京料理長に就任し、統括する立場でもあります。フランス料理の楽しみ方や、各レストランの個性についてお聞かせください。

お客様には、TPOや楽しむ雰囲気によって、レストランを使い分けていただきたいと思います。そのためにも、私たち料理人がお店ごとの個性をしっかり理解し、提案できるようにしておかなくてはなりません。

例えば、地下1階にある「ラ ブラスリー」。フランス語の「ブラスリー」は、本来、地ビールを楽しむ酒場を指します。だから私たちも、本来の意味を体現するお店作りをして、お客様に楽しんでいただかなくてはいけません。
一方で、ファインダイニングとしてのイメージが定着している「レ セゾン」については、ガストロノミーを追求する存在としての役割があります。
どちらが上とか下とかいうのではなく、お客様がシーンによって使い分けられるよう、お店の個性を磨くことが大切なのです。「レ セゾン」は「ラ ブラスリー」の役割を担えず、その逆もしかりです。

今日、どこのお店に行くかというのは、お客様次第だと思います。フォーマルな会食・接待で「レ セゾン」を使われるお客様が、プライベートで「ラ ブラスリー」を訪れるということも十分考えられますから。
気を付けたいことは、フランス人シェフがいるのは「レ セゾン」で、日本人シェフがいるのは「ラ ブラスリー」という固定観念をお客様に与えてしまうことです。そうしないためにも、各レストランの「らしさ」や「良さ」が出たメニューやサービス、設えを実現することを念頭に、各店舗のシェフとコミュニケーションを取っています。

東京料理長という統括する立場では、お店同士の横のつながりを深めることも大切な仕事です。例えば、秋の食材として栗が好まれますが、各レストランでメニューが被ってはお客様の選択肢を狭めてしまいます。そうならないよう、同一の食材でも提供するメニューを変えるなど、工夫しているのです。

お客様の想像を超えるホスピタリティを提供したい!

―フランスから戻られた後は、2年間宴会を担当されていました。宴会は、「帝国ホテル」が誇るホスピタリティにも関わる部分だと思います。

日本のホテルにおいて宴会の重要度はとても高く、フランスをはじめヨーロッパにおける宴会の位置づけとは全く違います。

料理長に求められる役割も異なります。フランスだと料理長はそのホテルの顔となって、メインダイニングを仕切ることが求められます。バンケット(宴会)は二の次ですが、アメリカや日本の料理長は統括する立場という位置づけ。どうしても、宴会に重きを置くことが求められるのです。

宴会では、主催者がホテルや料理を決定します。来場するお客様に、選択の余地はほとんどないと言っていいでしょう。つまり、宴会で料理を提供するお客様というのは、直接契約を結んだ方ではありません。そのような関係性の中で、どれだけ満足していただける料理、サービスをお客様に提供できるかということが、宴会の難しさであり、面白さでもあります。

―「KIWAMINO」では、会食・接待をテーマに、エグゼクティブの方を対象としたお店をピックアップして紹介してきました。規模感は異なりますが、直接契約を結ばないお客様を満足させる点では、宴会と会食・接待は重なる部分がありますね。

そうかもしれません。統括する立場として、そのような状況の中でお客様に満足していただくためには、「ホスピタリティ」がとても大切な要素だと考えています。
一例ですが、大規模なウエディングでは1人目のお客様と200人目のお客様に料理を供する時間に差が出る場合があります。でも、供する料理の温度が違えば、200人目のお客様の満足度が下がってしまいますよね。そういうことがあってはいけないと私は考えています。

また、ウエディングに限らず宴会や会食では、その会がスムーズに進行するのはとても大切なことです。
進行を妨げないためにも、お客様のモチベーションを理解した上で、「ここまでしてくれるのか」と、良い意味でお客様の想像を超えるホスピタリティを提供しなければなりません。

帝国ホテルであったことではなく、私個人の体験に基づく事例なんですが……。フランス料理店では、テーブルでお客様がワインをこぼされたら、白いナプキンを敷いて粗相が目立たないようにする場合があります。もし、テーブルクロスの色が白ではなかったらどうでしょうか。お客様に気持ちよく食事を続けてほしいのなら、ナプキンもテーブルクロスと同色のほうがベストだと思いませんか。

―「ホスピタリティ」を洗練し続けることは「帝国ホテル」らしい、視座の高い試みですね。

ただ美味しい料理を作ることだけが、私に課せられた「東京料理長」の仕事ではありません。一皿一皿が、どのようにお客様に届くのかという部分にまでこだわり抜くことが、自分の仕事だと考えています。

利用シーンを細かく検討して「こういうサービスをしてくれたら気持ちいいだろうな」とお客様の視点に立って、よりよい「ホスピタリティ」を追求し続けていきたいですね。

レストランに飾られたお花や、食事の際に用いるカトラリーなど、それを見て使ったお客様がどういう思いを抱くのかまで、しっかりと責任を持ち続けていきたいですね。

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杉本雄(すぎもと ゆう) プロフィール

1999年、株式会社帝国ホテル入社。「レ セゾン」などを経て、2004年に渡仏。「ホテル・レクラン(Hotel L’Ecrin)」や「ホテル・ドゥ・キャランテック(Hotel de Carantec) 」「ホテル・ル・ムーリス(Hotel Le Meurice)」などで経験を積む。
「ホテル・ル・ムーリス」では、ヤニック・アレノ、アラン・デュカスのもとでシェフを務め、同ホテルのメインダイニング(3 つ星)にて責任者の役割を担う。その後、「レストラン レスペランス」や「レストラン スクエア(ロンドン)」で総料理長として活躍。
2017年に、帝国ホテルに再入社。2019年4月に、帝国ホテル東京料理長就任。

編集後記
インタビュー中、常にお客様を主役に発言されていることが印象的だった今回。「一皿一皿が、どのようにお客様に届くのか」、第14代東京料理長が目指す新しい「帝国ホテル」から目が離せません。

フランス料理

レ セゾン/帝国ホテル 東京

東京メトロ日比谷線/千代田線 日比谷駅 A13出口より徒歩3分

20,000円〜
フランス料理

ラ ブラスリー/帝国ホテル 東京

東京メトロ日比谷線/千代田線 日比谷駅 A13出口より徒歩3分

8,000円〜9,999円

謝 谷楓

「一休.comレストラン」のプレミアム・美食メディア「KIWAMINO」担当エディター。ユーザーの悩み解決につながる情報を届けられるよう、マーケットイン視点の企画・編集を心掛けています。

前職は、観光業界の専門新聞記者。トラベル×テック領域に関心を寄せ、ベンチャーやオンライン旅行会社の取材に注力していました。一休入社後は「一休コンシェルジュ」を経て、2019年4月から「KIWAMINO」の担当に。立ち上げを経て、編集・運営に従事しています。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:六雁
・好きなお店:すぎた
・自分の会食で使うなら:茶禅華
・得意ジャンル:日本料理
・好きな食材:雲丹/赤貝

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