和田倉濠を一望する「パレスホテル東京」の6階に位置する日本料理「和田倉」。絶景と共に、旬の食材の味わいを楽しめる和のファインダイニングは、フォーマルな接待・会食の場として幅広い支持を集めています。今回はその人気に迫るべく、料理長の宮部敬二氏を訪ねました。料理への想いや日本料理「和田倉」ならではの質の高いホスピタリティの神髄に迫ります。
目 次
自分の料理が、通用するかどうか試してみたい
―2011年から日本料理「和田倉」の料理長として活躍されてきました。改めて、料理人を志したきっかけについてお聞かせください。
熊本県出身で、実家は昭和元年創業の精肉店でした。幼い頃からお店の手伝いをしていましたから、包丁の扱い方は自然と覚えましたね。自営業ですから、商いの精神も日々の中で培われたように思います。
母が地元でも評判の料理上手だったこともあり、山菜や地場の食材を美味しくいただける環境で育ちました。料理への道は高校卒業後に歩み始めましたが、料理道に進む土台は自ずと固まっていたのです。
京都や和歌山の白浜といったホテルでの経験を経て、1997年に石川県で新規開業したホテルで初めて料理長となり、2000年からは箱根の老舗旅館直営レストランの料理長を務め、その3年後には旅館の総料理長を任されることとなりました。
―料理人として、とても充実した道のりを歩まれてきました。日本料理「和田倉」との出会いとは、どのようなものだったのでしょうか。
箱根では約10年間勤め上げましたが、もともと第二の故郷ともいえる関西に帰りたいという想いがありました。そこで、尊敬していた先輩に相談する運びとなったのです。大阪にある「リーガロイヤルホテル」で和食の統括料理長をやっている方で、東京にある「パレスホテル」が和食の料理長を探していることを教えてくれました。ちょうど、「パレスホテル東京」がリニューアルオープンする時期のことです。
何十年と料理の世界に身を置いてきましたから、「パレスホテル」について調べていくうちに、伝統と格式のあるホテルで通用するかどうか試してみたいという想いが芽生えましたね。
面接については、ダメだったら関西に帰ろうというチャレンジングな気持ちで臨んだのですが、縁があって、結果今に至るというわけです。
―料理人としての経験と、「パレスホテル東京」が求めていたものがマッチしたのですね。
早い話、自分がやってきたことを表現できる環境が整っていたのだと考えています。「パレスホテル東京」が求める料理とか、これまでの歴史でどういう料理が供されてきたとか、当時の自分はまったく分かりませんでしたし、これまでの経験や手法を180度変えてまでやる必要はないとも考えていました。
「こうじゃないとダメ」と言われたらそれまでだって気持ちは持っていましたね。
振り返ってみると、自分がやってきた料理・経験を新しく出会うスタッフと一緒に再現し、その結果としてお客様からも評価をいただけた。そういうことが、積み上がっての8年間だったと思います。
和田倉濠の景色と旬の食材を楽しむ唯一無二の日本料理店
―8年間、仲間である調理やサービススタッフの方と共に日本料理「和田倉」を作り上げてきました。そんな日本料理「和田倉」が提案する、日本料理の楽しみ方についてお聞かせてください。
料理については、やはり「食べて美味しくないといけない」ということ。もちろん、季節感や美しさも大切な要素ですが、料理の大前提は味にあると考えています。
料理人としての根本的な部分でいうと、自分自身も食べることが大好きでお酒も飲みますので、確固たる自分の好みを持っています。だからお客様にも自分が食べて美味しいと思うものを召し上がっていただきたいですね。自分が不本意だと思うような味や料理は出したくないです。
おすすめは、日本料理「和田倉」が誇るロケーションもお食事と共に楽しんでいただきたいですね。窓越しの、和田倉濠を望む唯一無二の景色を眺めつつ、「非日常の時間」を体験してほしいと思います。
―海外のお客様が多いことも「パレスホテル東京」の特徴です。日本の伝統文化である和食を伝える際に、大切にしていることはありますか。
日本料理「和田倉」では、メニューが毎月変わるので、シーズン毎の旬の美味しさを通じて季節を感じ取ってもらえるよう工夫しています。
日本は島国で、国土も広いとは言えません。しかし、四季があるので、素材にとても恵まれた環境が整っていますよね。
流通も、昔以上に進化していると実感しています。自分が若い時と違って、今は地方の食材も翌日には届くようになりました。日本海のズワイガニなど、北陸や東北・北海道の食材も捕れた次の日には料理でき 、季節の旬をより味わいやすい環境が実現していますね。
スタッフ一人ひとりがお客様のために考え、行動する
―そんな日本料理「和田倉」の味を提供し続けるためにも、後進の育成は不可欠だと感じました。
日本料理「和田倉」には多くの調理スタッフがいるので、自分とは修業の過程が全然違う者や、異なるバックグラウンドを持ったスタッフが沢山在籍しています。一人ひとりのカルチャーが全然違うんです。
なので日本料理「和田倉」に来て、「こう調理した方が美味しいんだ」と知って、カルチャーショックを受ける者もいるようです。また、「こういう風にした方が美味しいなら、こうやっていこうよ」というように、お客様に美味しいものを提供するという視点に立ってもらうことで、成長を促しています。
「パレスホテル東京」はグローバルなホテルですから、調理方法についても引き出しを増やしてあげられるよう気を付けています。ハラル対応の食事やアレルギーなど、急な対応が必要なことも多々ありますので、若い子にはそういったことの対処方法も経験させてあげたいですね。
サービススタッフについても、毎月メニューが変わるたびに説明会を兼ねた試食会を必ず開くようにしています。料理についても、「これはこういう風にして作られている」とか、「メニュー名の成り立ちや由来はこう」とか、丁寧に伝えるよう心掛けています。お客様への対応力向上にもつながることです。
―だからこそ、サービススタッフの方の質も高いのですね。
一人ひとりが、「パレスホテル東京」と日本料理「和田倉」のことが好きなんだと思います。質の高いサービスは、好きじゃないとできないことですから。
トップダウンではなく、「こうしたらお客様が喜んでくれるよね」と自分たちで考えるような、ベストな状態が出来ているのです。
イラストが上手なスタッフがいるのですが、お客様の帰り際、自ら描いた似顔絵をお渡しすることがあります。例えば、結婚記念日でお越しのご夫婦なら「結婚記念日おめでとうございます」という言葉を添えた似顔絵を差し上げるのですが、とても喜ばれますよね。思い出を形に残せるよう、スタッフ自身が考えて行動した結果の1つだと思います。
「パレスホテル東京」内にある料理店ならではのメリット
―まさに、スタッフ一人ひとりが「パレスホテル東京」と日本料理「和田倉」のことを好きだからこそ実現できるアクションですね。他にも、「パレスホテル東京」に位置する日本料理店ならではの強みはあるのでしょうか。
異なるジャンルの料理長・スペシャリストと密接にコミュニケーションをとり、ジャンルを超えたチームワークでお客様を喜ばせられる点ですね。
古い話になるのですが、修業時代「洋食の料理人とは口を利くな」という親方もいました。一方の「パレスホテル東京」では、自分たち和食の料理人は、フランス料理の料理人やペストリーシェフなどとも密にコミュニケーションをとるよう心掛けています。例えば、ペストリーシェフに、日本料理「和田倉」のデザートを美味しくするコツやトッピングのペアリングを教えてもらったりすることもあります。
他のセクションのシェフから、「大切なゲストでリピーターなので和のテイストを感じる食器を借りたいけども……」とお願いされることも度々です。お客様の料理の楽しみ方の幅を広げることができるので、今後も密にコミュニケーションをとり続けていきたいものです。
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宮部敬二 プロフィール
1962年熊本県生まれ。
京都をはじめ、関西の和食料理店で修行を重ねる。2000年、「ルレ・エ・シャトー」の加盟店である箱根の老舗旅館「強羅花壇」内の「懐石料理 花壇」料理長に就任し、2003年には「強羅花壇」の総料理長として活躍。国内外の美食家たちから高い評価を得る。2011年にパレスホテル東京 調理部 和食料理長、日本料理「和田倉」料理長に就任。
編集後記
「一人ひとりが、『パレスホテル東京』と『日本料理 和田倉』のことが好きなんだ」、そう語りつつ、思わず笑顔をこぼした宮部料理長。料理長もまた、「パレスホテル東京」と日本料理「和田倉」の大ファンの一人なのだと実感した瞬間でした。日本料理「和田倉」と言えば景色や料理に注目が集まりがちですが、取材を通じ、料理人とサービススタッフ、ホテル内のチームワークや結束の強さを実感することができました。
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アクセス
住所 東京都千代田区丸の内1丁目1−1 パレスホテル東京6F