インタビュー|

「レストランひらまつ 広尾」 平松大樹氏に聞く、「ひらまつ」を受け継ぐ2代目料理長の挑戦

長きにわたり、日本におけるフランス料理の礎を築いてきた「レストランひらまつ 広尾」。2017年、創業35年の節目を迎え、創業者でありオーナーシェフである平松宏之氏から平松大樹氏にバトンが引き継がれました。2代目料理長は「レストランひらまつ 広尾」とほぼ同じ年。歴史あるグランメゾンを舞台に、自らを料理で表現し続けるシェフにお話を伺いました。

建築から料理に目覚めた学生時代

―大樹シェフは昔から料理人になりたいと思っていたのですか?

元々は建築家になりたかったので、建築系の高校で勉強をしていました。そんなとき日本料理屋でアルバイトを始めて、料理をするのが楽しくなって。仕事にするなら料理なのかなと、少しずつ思うようになりました。
仕事として本格的に考えだしたのは、テレビでフランス人シェフを見たとき。瞬間的に「すごいな、フランス料理だったら人生をかけられるかもしれない」と思ったことがきっかけですね。

フランスで料理に携わる道を探していたとき、辻調理師専門学校を知り、入学。そこでは1年間学んでいい成績を収めると、フランスの一流レストランで実地研修ができるんです。とにかく一生懸命勉強をして、憧れていたは南仏の3つ星レストラン「ミッシェル・ゲラール」で研修するチャンスに恵まれました。

―思い立ったらその道へ一直線ですね!ひらまつとの出会いは?

夏休み中にパリへ遊びに行ったとき、たまたま「レストランひらまつ パリ」の前を通りかかりました。「レストランひらまつ」は知っていましたが、パリ店があるとは知らずに偶然見つけて。入社すればパリで働くチャンスがあるんじゃないかと思い、帰国後に面接を受けました。

そのときの面接会場は代官山のイタリア料理店「リストランテASO」で、面接官は当時料理長だった阿曽シェフでした。今思えば生意気ですけど「レストランひらまつ 広尾」しか考えられないし、ゆくゆくはフランスで働きたいと伝えました。
ありがたいことに広尾に配属され1年半が経ったとき、パリ店が移転するという話になり、運よくフランスに行くことができました。

日本とフランスでの経験が生きる、人の育て方と知識の共有

―日本とフランスで修業される中で、何か違いは感じましたか?

もちろん食材は違いますが、一番大きく違うと思ったのは人の育て方。フランスはチームで仕事をするので、いい意味で師弟関係がないんです。一緒に買い物や食材探しに行ったりする関係性は、日本とは大きく違う部分だと思いましたね。

―そのときの経験を踏まえて、人を育てるうえで心がけていることはありますか?

自分のできることを精一杯やればいいだけ。それぞれが、それぞれのステージで活躍できれば、最高で最強の調理場になる。そんな風に思いながらスタッフと接しています。

―ひらまつでは料理長が集まって合宿をしていると伺いました。どのようなきっかけで、合宿開催に繋がっているのでしょうか?

一番のきっかけは、ひらまつに日本料理の料理人が加わったことです。彼は何も隠さずに教えてくれて、僕もフランス料理の技を共有し、お互いすごく勉強になったんですよ。日本料理でも、フランス料理に生かせることはたくさんあります。逆もそうで、一般的に日本料理にトリュフは使いませんが、使い方さえ覚えれば自分の料理に取り入れることができる。

情報交換をすることで、料理の世界は2倍にも3倍にも広がります。ひらまつで働くスタッフがお互いに成長できれば、こんなにいいことはないなと。シェフ・料理長同士もそうですし、今レストランひらまつ 広尾にいるサービススタッフに対しても。教えるということに、隠す必要はないと思うんです。

料理長は店に1人でなかなか情報交換ができないから、集まることにすごく意味がある。普段はお客様のことだけを想って料理を考え、仕上げる。一方で合宿ではお客様がいないので、自分の料理に没頭したり、他の料理長が何をしているのか観察できたりします。2年連続で行っているので、今年もぜひ開催したいですね。

先代・宏之シェフから2代目料理長就任へ

―料理長に就任され、お店を継がれたときの想いや決断はありますか?

ターニングポイントは2012年、パリ店の副料理長だった30歳のとき。そのままパリに残るか、本店のシェフに挑戦するか、どっちがいい?と聞かれて。悩みましたが、あえて大変な方をとりました。最初は嬉しかったんですが、あとからやばいなと。嬉しかったのは最初だけでしたね。

―30歳の若さで本店の料理長に選ばれるのは大抜擢ですね。一番大変だったことはなんですか?

まずはお客様です。「ひらまつ亭」のオープンが1982年、僕が生まれたのが1981年なので、ほぼ同じ年。当時から通っているお客様は愛情がある分、厳しかった。もう一つは、シェフとは調理場を一つにまとめるリーダーであるべきということ。そこも苦労しました。先代からはいつも『ちょっと手の届かない』目標を与えられていました。なんとかなるだろうと思いつつも、心の底ではなんとかしなきゃという強い焦りもありました。

―先代・宏之シェフのスペシャリテ封印に対しての苦労はありましたか?

スペシャリテの封印は、「俺に頼らずに自分で料理しろ」って言われているんだろうなと。そうしないといつまでもスペシャリテに頼ったままで、成長できない僕の様子が手に取るようにわかったのでしょう。やはり素晴らしい料理なので、それを作っていれば間違いない。ただ、封印しないままでは料理長としての僕の成長は限定されていたと思います。

今はコースには加えず、食材が美味しい12月から2月の間だけ作っています。1年中お出しできるのですが、先代の料理を出すからには、敬意とオマージュを込めて、食材の一番いい時期にだけ作ろうと決めています。

―ご自身のスペシャリテを作られたいと思ったことはありますか?

旬にあわせて、メニューは1か月から1か月半で変えています。今日来て、来月もいらっしゃるお客様は違う料理を召し上がる。旬の食材は次々に変わるので、いつも食べれる料理はないんです、その意味でもスペシャリテは難しいですね。

去年作って、また今年も作りたいなと思ったのは、「ホワイトアスパラガスの炭火焼き」。20分くらいかけて備長炭でじっくり焼くと、どんどん味が凝縮して本当に美味しくなるんです。お客様が来年も食べたいと言ってくれるようになれば、それがスペシャリテになるのかもしれません。シーズンごとのスペシャリテができたらベストですね。

生産者の顔が見える食材へのこだわり

―ひらまつのお料理は、旬の食材がふんだんに使われているのが魅力ですよね。食材はどのように探されていますか?

1日から2日かけて、自ら農家さんのもとへ足を運んでいます。スケジュールがタイトなので、全地域を把握されている県庁や市役所の方に案内してもらうことが多いです。訪れた農家さんから他の方を紹介してもらうこともありますね。

今契約しているアスパラガス農家さんは、実際に会って信頼関係を深めていく中で、料理に合う太さのものを作ってくれるようになりました。しかし、跡取りがいないんです。だからホームページで農家さんについて紹介することで、やりたいですっていう人が現れればいいなと思っています。

―食材にこだわるようになった理由やきっかけはありますか?

料理長になってから、「自分はどんな料理を作ればいいのか」という壁にぶち当たりました。そんなときにたどり着いたのが、いい食材。アスパラガス一つとっても、せっかくなら自分が日本で1番いいと思うものを使いたいし、レストランに来たお客様にも“突き抜けた”アスパラガスを食べてもらいたいんです。

提供にかかる時間を逆算して茹で始め、茹で上がりと同時に焼き上がった甘鯛とソースを盛り付け、湯気が出ているうちにお客様のところに届ける。シンプルな料理ですが、生産者の想いとか、僕の想いとかいろいろなものが加わっていて。だからこそ美味しい。食材は自分では作れないので、作ってもらったものは大事にしたいですね。

―最後に、今後挑戦したいことや目標があれば教えてください。

40歳までに、全ての食材において生産者の顔が見えるようにしたいと思っています。あとは若いスタッフを一緒に農家さんのもとへ連れて行くことで、食材を作ってくれる人達の尊さを知ってもらいたい。食材をどれだけ大事にするかを教えるのが、料理長最大の仕事だと思っています。そのためには僕自身もたくさんの産地を巡り、多くの生産者にお会いしたいです。

あとは、やはり先代・平松宏之のイメージが強いため、僕がこの「レストランひらまつ 広尾」のシェフだということを知ってもらい、お客様にたくさん来ていただけるようにしたいなと思っています。

スマートで爽やかな笑顔の奥に、料理人としての熱い情熱を持った大樹シェフ。“何を食べたのか強く記憶に残る、食材を大切にした料理”を信念に、今後も生産者の顔が見える食材と自身の感性を通じて、ここでしか味わえない最高の一皿を創り上げることでしょう。

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平松 大樹 Hiroki Hiramatsu

1981年8月生まれ、広島出身。レストランひらまつ 広尾料理長。
辻調フランス校を主席で卒業後、Les Prés d’Eugenie-Michel Guérard(ウージェニー・レ・バン)で修行。2003年、株式会社ひらまつ入社。レストランひらまつ広尾にて研鑽を積み、再渡仏。L’Auberge de l’Ill(アルザス)やPaul Bocues(リヨン郊外)での研修を経て、レストランひらまつパリの副料理長に就任。2012年よりレストランひらまつ広尾の料理長として腕を振るう。

フランス料理

レストランひらまつ 広尾

東京メトロ日比谷線 広尾駅 1番出口より徒歩1分

misaki

一休.comレストランの元営業。300店舗近いレストランを担当したのち、もっと世の中に宿やレストランの魅力を発信したい!という思いから、KIWAMINOの編集に。よく食べ、よく遊び、よく働くがモットー。全国各地を飛び回り、インタビュー記事を通してシェフの熱き想いをたくさんお届けできるよう日々奮闘中です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:LATURE/TAKAZAWA/銀座 きた福
・好きなお店:オテル・ドゥ・ミクニ
・自分の会食で使うなら:六雁
・得意ジャンル:フランス料理
・好きな食材:赤身肉/鴨/海老/いくら

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