インタビュー|

「TAKAZAWA」高澤義明氏に聞く、日本の食文化をモダンに供する料理哲学

赤坂の大通りから一本入った裏路地に、ひっそりと佇む10席のレストラン「TAKAZAWA」。
オーナーシェフを務めるのは、日本代表として国際料理学会登壇や、アメリカの高級グルメ雑誌で「人生を変える世界のトップレストラン10」のひとつにも選出されるなど、国内外で活躍する高澤義明氏です。
今回は、世界を経験した高澤シェフが考える日本の食文化や料理人の育成、これからの挑戦についてお話をお伺いしました。

料理人の家庭にて幼い頃から料理に触れる

―高澤シェフは料理人の家庭で育ったと伺いました。やはり子どもの頃から、将来は同じ道に進まれたいと思っていたのですか?

両親も親戚も料理人だったので、幼い頃からその背中を見て育ちました。しかし家や店での手伝いで料理を身近に感じる一方、子どもながらに大変な仕事であることもわかっていて。親の苦労を見ていたからこそ、同じようにはやりたくないなと思っていましたね。

両親が店をやっていたので家では祖母のご飯を食べることが多かったのですが、だんだんと「自分でも作りたい」と、料理雑誌を見て家庭料理を勉強するようになりました。そうしているうちに高校卒業後の進路を決める時期になって、いろいろと考えた結果、自分を表現できるのは料理だと。当時得意だった美術も料理のアート性に繋がると思い、調理師の専門学校に進みました。

はじめは祖母に恩返しができればいいなと馴染みのある和食をやろうと思っていましたが、洋食の華やかな演出に惹かれて、だんだんと洋の道に進むようになりました。常に料理界の先端を走りたいという思いで、2005年に「ARONIA DE TAKAZAWA」をオープン。しかし食材と毎日触れ合い、海外のお客様が日に日に増えていく過程で、自分のホスピタリティやおもてなしの仕方が違うと感じるようになったんです。

―具体的に、その違いを実感したエピソードなどがあれば教えてください。

料理学会での講演の様子

その頃から世界の料理学会などに呼ばれるようになって、日本のことを話せない自分に気づきました。料理のテクニックや文化、どうしてそうなったかなど、なかなか言葉で説明ができない。例えば漬物ひとつとっても、海外の人は科学的なロジックを知りたいんですよね。「ぬか床」と言ったら、「じゃあ“ぬか床”ってなんなの?」って。

そうやって掘り下げていくと、最後にたどり着いたのが「日本」だったんです。自分の国のことを知っていないと世界の学会で日の丸は背負えないなと、2008年頃から「日本」にどんどん入り込むようになりました。

お店でも海外からのゲストが7割を超えるようになったとき、東日本大震災が起きて海外の方が誰も来なくなりました。でも、日本には良い食材がたくさんある。それを日本人としてもっと広めたいという思いで、翌年の2012年に店名をフレンチの印象が強い「ARONIA DE TAKAZAWA」から「TAKAZAWA」に変更し、より国産の食材にフォーカスを当てるようになりました。

「TAKAZAWA」のコンセプトは、「日本の良き風土・人・食材、伝統的な世界を再構築してモダンに供する」です。日本のものを、自分なりの調理方法で紹介できるようにしたいと思っています。

世界から見た日本の料理や文化

―世界で活躍する高澤シェフですが、グローバルな視点で日本の食材や文化に関して感じる思いなどがあれば教えてください。

一言で言うと、日本が圧倒的に良い。日本に敵う国は、他にないと思います。この食材は〇〇産の方が美味しいなどはあったとしても、普段の食生活や食文化のレベル、料理人の技術は、すべてにおいて世界でトップだと思っています。

僕も海外に行ったときは現地の話題の店に行きますが、ほぼ和を使っている印象です。アメリカでもフランスでもメインディッシュはWAGYU(和牛)と書かれているし、5(ファイブ ※A5ランク)などの単語が普通に使われています。

世界各国のトップレストランが日本にインスパイアされて、自国に持って帰っている。それだけ日本は注目されていて、この状況はしばらく続くと思うんです。だから自分たちも生産者の方たちと連携して、さらにレベルの高いものを作ってもらいたいですね。

―高澤シェフのお料理にもたくさんの思いや技術が詰まっていると思うのですが、どのように発信したいと考えられていますか?

僕から発信できる手段は限られていますからね。お客様に料理を食べてもらうのがひとつ、あとは学会に出たときに、よりわかりやすいプレゼンテーションをするとか。世界で行われるディナーイベントでは積極的に和をテーマにして、彼らに受け入れられるように噛み砕いて楽しんでもらうようにしています。

旨味や出汁が流行って海外でも使われるようになりましたが、実際にその味をわかっている人は少ないと思うんです。彼らからしてみれば、ほぼお湯です。根気強く伝えるのも大事ですが、海外からのゲストには少し味をアレンジして提供しています。

経験値から、透明だと薄いビジュアルインパクトも、ちょっと白濁させることでより美味しく感じられる。だから馴染みのあるオマール海老を入れたり、生クリームを少し垂らしたりしています。受け入れやすいように変換してあげることも大事なんじゃないかなと。

―食べる方によって、発信の仕方も変えられているのですね。

それがすごく大事だと思います。ピュアに和と言っても、全然受け入れられない。日本に初めて来たお客様の中には、「Raw fish(生魚)?信じられない!」っていう方もまだまだいます。海外では臭くて食べられない生魚が日本で出てきても、免疫がないのでやっぱり受け入れられない。だからそれをちょっと工夫してあげることによって、美味しかったっていう印象を持って帰ってもらいたいなと思っています。

時代に合わせた働き方で料理人を育てる難しさ

―最後に、今後の目標や挑戦したいことがあれば教えてください。

自分の言っていることや、やりたいこと、テイスト、感覚っていうのがわかるスタッフを、より多く育てていきたいですね。自分1人で終わるのではなくて、組織として同じ思いを共有できる人が少しでも増えたらいいなと思います。

国の政策は、昔と真逆の方向に進んでいます。かつてあった職人を育てるための時間が、今の時代にはありません。僕たちは毎日16時間働いてこの年で独立していますが、今の若い子たちはその時間が半分に減ることになる。やっぱり技術を習得するには時間が必要なので、それができない環境で技術職を育てるのは非常に難しくなります。

―料理人の世界も今の時代に合った働き方へと変わっていく中で、どう技術を伝承していくかが大事になるわけですね。

伝承はできないんです。例えば、5時間練習して飛べるようになる縄跳びを、半分の2時間半で飛べるようになったとします。すると、できることとできないことが出てきてしまう。飛べないことはないけれど、2重飛びまではできないとか。だから今後は、技術として2重飛びのない料理になってしまうかもしれない。

僕たち職人は技術職なので、自分たちの手と目と感覚じゃないとできないこともまだまだ多いです。ロボットがクリエイティブなものを生み出すのはもう少し先になりそうなので、若い料理人を育てるために僕もあと10年20年は頑張りたいなと思っています。

伝統や文化を大切にしながらも、ジャンルの枠にとらわれずに自由な発想で「日本」を発信し続ける高澤シェフ。世界の“食”を牽引する存在でありながら、次世代のトップを育てるべく若い料理人とも向き合う姿勢に感銘を受けました。その活躍は留まることを知らず、今後もクリエイティビティ溢れる逸品を作り上げていくことでしょう。

※今回のインタビューは「TAKAZAWABAR」にて行わせていただきました。

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高澤 義明 プロフィール
1976年2月4日東京生まれ。2005年に“誰も知らない小さな実”という意味の「ARONIA」を店名に加えた「ARONIA DE TAKAZAWA」をオープン。アメリカの料理雑誌FOOD&WINE MAGAZINEでは『人生を変える世界のトップレストラン10』のひとつに選ばれるなど、海外メディアにもたびたび取り上げられる。2012年さらなる飛躍を目指して、店名を「TAKAZAWA」に変えてリニューアル。2013年~2017年、サンペレグリノ『ASIA TOP 50』に名を連ねる。2015年、本店同様“和”をテーマにした「TAKAZAWABAR」を赤坂にオープン。「日本の良き風土・人・食材、伝統的な世界を再構築してモダンに供する」というテーマのもと、ジャンルの枠にとらわれない自由な発想でオリジナリティーを追求。器から食材に至るまで、新しい形で日本の文化に通じる料理を提供している。

イノベーティブ

TAKAZAWA

東京メトロ千代田線 赤坂駅 1番出口 徒歩3分

20,000円〜
バー

TAKAZAWABAR

東京メトロ千代田線 赤坂駅 徒歩3分

アクセス
住所 東京都港区赤坂3-5-2 サンヨー赤坂ビル裏側 2F

misaki

一休.comレストランの元営業。300店舗近いレストランを担当したのち、もっと世の中に宿やレストランの魅力を発信したい!という思いから、KIWAMINOの編集に。よく食べ、よく遊び、よく働くがモットー。全国各地を飛び回り、インタビュー記事を通してシェフの熱き想いをたくさんお届けできるよう日々奮闘中です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:GINZA chez tomo/LATURE/TexturA
・好きなお店:ふらんす料理 オステルリーラベイ
・自分の会食で使うなら:六雁
・得意ジャンル:フランス料理/日本料理
・好きな食材:赤身肉/鴨/海老/いくら

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