インタビュー|

赤坂「VACCA ROSSA」渡邊雅之氏に聞く、赤身肉の美味しさを引き出す薪火焼き料理の魅力とは

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焼肉、ステーキ、鉄板焼きなど、肉を焼いて食べる調理法は様々ありますが、ここ数年、薪を熱源とした調理法を取り入れるレストランが増え、肉料理の楽しみ方の選択肢にますます広がりを見せています。
調理器具が進歩し、最新器具や技術を取り入れた科学的な調理法も生まれている一方で、原始的な調理法である薪火焼きにシェフ達が惹かれる理由とは何なのでしょうか?

今回は、ブームとして注目される前からいち早く薪火焼きを取り入れているイタリア料理店「VACCA ROSSA(ヴァッカロッサ)」シェフ・渡邊雅之氏にインタビュー。薪火焼きの魅力から、薪火焼き料理を通じて届けたい想いまで、たっぷりと語っていただきました。

イタリア旅行中に食べたビステッカに惹かれて、発祥の地へ

-渡邊シェフと薪火焼き料理の出会いについて教えてください。

子供の頃から、カブスカウト、ボーイスカウト、シニアスカウトといった活動を通じて、外で薪を起こして料理を作ることに慣れ親しんできました。
薪で調理をしたいと思ったきっかけは、20歳の時、本物のビステッカアッラフィオレンティーナ食べる目的でトスカーナを回った時に出会った、感動した体験が原体験になっています。 焼き立ての肉を噛んだ時の香ばしさや噛む楽しさに感動しました。ずっと噛んでいたかったし、飲み込んだら終わってしまうのかと思いながら食べた事を思い出します。

ビステッカアッラフィオレンティーナは元々局地的な料理で、イタリア料理の中でも特にシンプルを極めた数少ない料理です。元々シンプルな構成のものに惹かれるタイプだったので「焼いただけの料理があるのか」と思いました。
そこからイタリアの文献や資料でビステッカを調べてみると、様々な熱源の中でも薪火が最高だと書かれていたので、その頃からずっと、薪のお店で働きたいと意識はしていました。

-その後、27歳でイタリアに渡り、ビステッカの名店「ラ・キウーザ」で修業をされたそうですね。「ラ・キウーザ」で働きたいという想いが以前からあったのでしょうか?

ビステッカの中でも赤身が美味しいということ、赤身のビステッカを焼くには薪が最高だということを話には聞いていましたが、当時の日本には良い赤身の牛がいませんでしたし、薪火焼きを専門でやっているお店もありませんでした。
そんな中でイタリアに渡ったのは、発祥の地に行きたかったからです。
ビステッカの発祥は、トスカーナ州のキアーナ渓谷で飼育されてきた「キアナ牛」という種類の牛です。環境や、何故この料理が生まれたのかということも含めて「発祥の地を知りたい、見てみたい」と思い、イタリアに渡りました。

現地では先ず牛を見に牧場を巡って、いいなと思った牧場に卸しているお肉屋さんを聞き、さらにお肉屋さんに卸しているレストランを聞いて、食べ歩きをしました。
そこで訪れたひとつが「ラ・キウーザ」です。運ばれてきたビステッカの香りが自分のイメージを超えていて「これだ!」と思いました。キッチンを見せてもらえることになり、入ってみるとやっぱり薪を使っていたんですよね。「自分は薪で肉を焼きにイタリアに来たんだ」などと、オーナーと話すうちに働かせてもらえることになりました。それが料理人としての薪火焼きの最初です。
後で分かったことですが「ラ・キウーザ」は、キアーナ渓谷の最初の斜面を所有していたので、偶然にも発祥の地のレストランで働くことができたんです。

-「知りたい」という想いでイタリアに渡られる行動力がすごいですね!「ラ・キウーザ」でのご経験で、特に印象に残っていることは何でしょうか?

トスカーナで一番に感じたことは、中心部にある緑の殆どが開拓されていて、人の手が行き届いているということでした。手が入っているのに緑が溢れていて、破壊されている感じがしないのは、共生しているからなんだと分かり、すごく感銘を受けました。

「ラ・キウーザ」は、見渡す限りの山や土地、全ての環境をオーナーが所有していましたが、オーナーは「自分は引き継いでこの土地を持っているけれど、管理者としてたまたま自分が居るだけで、景観を含め、この環境をいかに次の世代に残していくかという役割分担なんだ」とよく話していました。
その話の象徴として「ラ・キウーザ」では森を守るために、店の薪が少なくなると、オーナーが庭師に「山のあの辺りを切ろうか」と、切る場所を指示していました。森は管理されずに放置していると環境が悪くなります。陽が当たっていなかったり、風の流れができていなかったりする所の木を切ることで森が健康になります。つまり、森を守るための薪火調理ということです。

僕は子供の頃からのボーイスカウトの経験が根底にあって「森を守る」という考えにすごく共感できました。僕にとって、そういうことをしたいと思ったアプローチの形が、薪で焼くビステッカという料理だったんです。
イタリアでの経験を通じて、様々な意味で、薪が厚みのある赤身肉に適しているということを実感しました。

数々の壁を乗り越え、こだわりの暖炉を備えた薪火焼きの店をオープン

-帰国後、2002年青山一丁目に「ベッカッチャ」をオープンされますが、薪火焼きを導入されたのは2010年12月六本木に移転されたタイミングなのですね。

帰国後、薪で焼くビステッカの店を始めようと思いましたが、すぐには実現できませんでした。理由のひとつが、狂牛病の世界的な流行で、骨付き肉の使用が法律で禁止されてしまったこと。もうひとつは、キッチンで薪をオープンに燃やす許可が下りなかったことです。先程も話しましたが、当時の日本には薪火焼きのお店が無く、今の様な空調システムも無く申請が下りなかったんです。
キアーナ渓谷周辺ではジビエ料理も盛んで、感銘したことも多く、自然に学ぶ、共生する意味で、炭で焼くジビエ専門の店として2002年に「ベッカッチャ」を始めました。

その後、あと1~2年後の法改正で骨付き牛肉の使用が解禁されることが分かり、薪火焼きの店をやるために紹介してもらったのが、オーダーメイドで石窯を作っている増田煉瓦さんでした。その時偶然に増田社長が資材買付でトスカーナにいて、僕が修業をしていた「ラ・キウーザ」へ暖炉を見に行ってもらいました。一緒に試行錯誤しながらオリジナルの暖炉を作ってもらって、2010年12月に六本木に店を移転するタイミングで、やっと暖炉の薪の店ができることになりました。
そこから改良を重ねて、今「ヴァッカロッサ」で使っている暖炉は、3代目です。

店名にもなっている赤身肉へのこだわりと想い

-2013年にオープンした「ヴァッカロッサ」は、 イタリア語で「赤牛」という意味だと拝見しました。どのような想いが込められているのでしょうか?

「赤牛」もそうですが、「赤身の牛肉」という意味もあります。
イタリアでスーパーに行くと、牛肉は、雄雌はもちろん月齢も様々なものがあって、呼び方も細かく分かれています。その国で大事にしているものには複数の種類があって、言葉の意味も多様です。
そういう土壌がある中で「赤身の牛」「赤身肉」というのを店の名にしたいと思いました。僕の出発点でもある「土佐あかうし」の意味にもなるし、赤身の肉だけをやりたいという象徴として「ヴァッカロッサ」と名付けました。

-シェフにとって、赤身の牛、赤身肉の魅力とは何でしょうか?

日本は昔から箸の文化圏で、柔らかい事に重きを置かれ、サシの入った肉が喜ばれますが、僕はイタリアに行って、噛む楽しさを感じられる赤身肉に魅了されました。その時に感じた味や噛み心地は、今でも僕がビステッカを作る上での基準値になっています。

僕が考える赤身の肉とは、シンプルに健康な牛です。
その中でも僕の出発点になっている「土佐あかうし」は元々、牧草やカロリーが低い植物系の粗飼料を食べて大きくなったと言われる牛で、自然形態に乗って、本能行動に添った育て方が適していると言われています。
日本の食肉の歴史は家畜から始まっていますが、トスカーナの食肉の出発点はジビエです。自然に育ったものをいかに美味しくするかという考えが蓄積されてきた文化があるので、その価値観に近しい赤身肉が僕の前提になっています。

理想の焼きのために、試行錯誤を繰り返して作り上げた暖炉のこだわり

-現在の暖炉は3代目とのことですが、どのような特徴があるのでしょうか?

ベースは、腰から上の高さに設けられる調理用に特化した「トスカーナ暖炉」です。「ラ・キウーザ」で焼いていた時に「もっとこんな風だったいいのに」と思ったことを具現化し、実際に使う中でアップデートを重ねて現在の形になりました。

僕が好きなイタリアの考え方で「フレッシュなもの」を意味する「フレスケッツァ」という言葉があります。食べた時に肉汁がはじけるフレッシュ感や、噛むごとに味が出続ける感じが楽しいと思うので、僕がビステッカを焼く上で、香ばしくありながら肉のみずみずしさを一番大事にしています。
薪で焼くというのは、強火でありながら身縮みをしないという欲張りな行為。筋肉の組織が圧縮されにくいので、カットしても断面がちょっと濡れるくらいで基本的に肉汁が外に出ることがなく、繊維の中で肉汁が動いている状態を作りたいんです。それが、噛んだ時に初めて肉汁が躍るような焼き上がりです。

身縮みをさせないためには、下からの火だけで肉を焼く必要があるので、横からの輻射熱を受けないように、火床は焼き台よりも30センチメートル低く掘ってありますし、焼き台は10センチメートルの高さに焼き網を設置しています。強火の近火ということです。

レンガの種類も変えていて、側面に蓄熱性の低いレンガを使うことで、暖炉内の下だけが熱くて、上の方は涼しい状態になるようにしています。

-焼き方にはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

分厚い赤身肉には薪火焼きが良いというのは感覚的に分かっていましたが、薪火の焼き方の教科書的なものはどこにも無かったので、薪の種類、薪の水分量、肉の寝かし方などを少しずつ変えたものを同時に焼いて比較するという2者1択の実験と検証を何千回も繰り返してきました。その結果、感覚的にいいなと思っていたものに理屈が付いてきて、今のロジックに辿り着きました。
肉は冷たいまま切る、切りたてを焼く、こまめに肉を返す、など僕のやり方は、今まで肉を焼く時に「これがいい」と言われてきたことと真逆の行為ばかりなってしまいました。

基本的には、薄い焼き目が付いたら裏返すことを繰り返して、焼き色を重ねています。
肉の種類や部位によっても違いますが、薄い焼き色は旨みを強く感じますし、濃い焼き色は、旨みは少し後退しますが香りや余韻が長くなります。焼き色を重ねているので真っ黒に見えることもありますが、薄い茶色の層がグラデーションになっているだけで、焦げている訳ではありません。

自分で薪を焚くことで、肉に合わせたオーダーメイドの炭・熾火を作り出す

-渡邊シェフにとって薪火焼きの魅力とは何でしょうか?

薪火調理では、毎回自分で薪から炭を作ります。要は、炭は炭屋さんが作ってくれた既製品ですが、薪火焼きでは毎回肉に合わせて自分でオーダーメイドの炭を作るので、オーダーメイドの熾火が出来るんです。

今までの経験の中で、赤身の分厚いステーキを焼くには、最高峰の備長炭の真逆のものが最も相性が良いと分かりました。最高峰の備長炭は密度が高いので点で熱が当たり利点などは多いですが、僕が欲しいのは、空気を多分に含んだ様なフカフカの熾火、密度が低くて拡散した熱です。
そのために、お肉を焼くタイミングに合わせて暖炉で薪を焚くところから自分でやっています。
炭は効率を追及した固形燃料ですが、薪はすごく非効率で、さらに僕のやり方はいかに非効率に薪から炭を作るかということです。なので、すぐに灰になってしまうような炭ができるんですけど、僕にとってはそれが良いですし、ある意味で非常に贅沢だと思います。

-薪はどのようなものを使っているのでしょうか?

石川県の薪を使っています。循環の考えがある場所の料理を学びに行った人間としては、森を守ることが前提になっている間伐材であることが重要でした。ここは、自然系を守りつつ無駄なところを整備していて、動物と人間の住み分けを含めた周りの環境を整えるという考えに基づいた間伐材で、森づくりの考え方が僕と合っていたんです。

実験と検証を繰り返していくと、薪の種類や水分含有率もピンポイントで決まってくるので、最初の頃は肉の種類や形態によって薪を変えていました。でもそうするうちに「この木だけが欲しい」となって、循環に沿わなくなってきてしまうことに気付いたんです。
これは料理人の性で、効率やもっと良いものを追求してしまうんですけど、木の種類に頼るのではなく、焚き方によって変えられないかということに立ち戻りました。
今はナラが主体で、アベマキやクヌギも入っていますが、前よりは自分の中での縛りが緩くなっています。

自然との共生、循環を意識した考え方の広まりを目指して

-薪火焼き料理を取り入れるお店が増えてきていますが、今後、薪火焼きが料理業界に与える影響について、どのように考えていらっしゃいますでしょうか?

薪火焼きが広まることで、森や環境に対する考え方も変わっていくのではないかと思っています。循環に乗った健康な牛の肉=赤身の肉に適した調理法である薪火焼きが広がることで、肉の価値が見直される可能性も出てくるのではないでしょうか?
最近ようやく有機牛が知られてきたり、自然環境に添った育て方をした牛が見直されたりしてきていると感じています。ただ薪火焼きという料理を追求するのではなく、土地や環境を含めた色々なものがあって循環が成り立っていること、共生していることを身近に感じて、意識する人が増えてくるといいなと思います。

-今後の目標や挑戦したいことを教えてください。

実は今、山口県の阿武町に200頭弱しかいない無角和牛の復興アドバイザーをやっています。その牛は4種類ある日本和牛のひとつですが、4種類の中で唯一、サシが入らない赤身の和牛だったので、昭和40年以降価格が急落し、農家さんが激減してしまいました。

イタリアで印象に残っていることのひとつに、農家さんがすごく尊敬されているということがありました。例えば、バールで飲んでいる時に「彼は最高のチーズを作っている人で」とか「すごくいいワインを作っている人で」と、突然知らない人を紹介されることがあって、作り手さん一人一人がみんなの自慢で大事にしているということに、非常に感動しました。

阿武町の町長さんから話を聞くと、イタリアで感銘した地域同様、循環型の町を目指しているとのことでした。農家さんや第一次産業をどう回していくかを町全体で考えることによって、農家さん、作り手さんを大事にする文化が生まれるのではと思い、町作りを含めてお手伝いをさせてもらっています。自然環境に添った育て方をした牛の価値が見直され、広まっていくためにも、とても意味がある活動だと思っています。
また、高知畜産試験場のご協力の元に、昔ながらの飼育法で「土佐あかうし」を育てて頂いていて、研究をしています。次世代の作り手さんのお役に少しでも立てればと思っていますし、お店でも近い将来、お客様に召し上がって頂く機会があると思います。全部位を美味しく無駄なく召し上がって頂く提案ができればと思っています。

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【プロフィール】
渡邊雅之
1969年生まれ。都内、イタリア料理店で修行。その間イタリアでのビステッカの食べ歩きの時に出会ったビステッカに魅了され、牧場視察や芝浦の食肉市場などでも働く。
その後、渡伊しトスカーナ州『ラ・キウーザ』で3年間働いて帰国。
2002年青山で『ベッカッチャ』をオープン。2010年移転の際に薪火を導入。
2013年から現店。
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イタリア料理・ステーキ

VACCA ROSSA

東京メトロ千代田線 赤坂駅 徒歩3分

12,000円〜14,999円

Mika Tsuboi

一休.comの宿泊営業アシスタントから編集部へ。ワインと一緒に、美味しいものを少しずついただくのが最高の幸せ。こぢんまりとしたフレンチやネオビストロがお気に入り。
最近は日本ワインにも興味を持ち、旅先で出会った好みのワインを自宅で愉しむのが日課。パンやスイーツなどにも目がなく、週末にはカフェやパン屋巡りをし日頃の情報収集も欠かさない。
・最近行ったお店:Restaurant Fermier/六雁/Varmen
・好きなお店:広尾 ぺりかん/RESTAURANT MAMA./LATURE
・得意ジャンル:ビストロ
・好きな食材:ジビエ/蛤/伊勢海老/キノコ

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