インタビュー|

「リストランテ・ポンテベッキオ」山根 大助氏インタビュー。研ぎ澄まされた感性と研究の積み重ねによる「ポンテベッキオ」流イタリアン

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国内イタリアンレストランの最高峰の一つ「ポンテベッキオ」。オーナーシェフの山根大助氏は、コンセプトの違う店舗を数店擁する関西イタリア料理の重鎮です。山根氏が考える日本でイタリア料理を展開する意義や、これからのレストランに求められることなど広くお話いただきました。

※本インタビューは、2021年3月16日にオンラインにて行いました。

イタリア流の高い美意識・デザイン性に魅せられて

―「リストランテ・ポンテベッキオ」は2020年9月11日で34周年を迎え、35年目に突入されました。山根シェフがシェフを目指されたきっかけについてお聞かせください。

小学生の頃、フェラーリやアルファロメオなどの車のデザインが好きで、デザイナーやイラストレーターという職業に憧れていました。古いカーデザインの雑誌を愛読していたこともあって、「カロッツェリア」と呼ばれるデザイン工房の「ピニンファリーナ」や「ベルトーネ」の話をしたかったけど、周りは誰も知らなくて。
同時に、料理を作ることも好きでした。当時放映されていたグラハム・カーの「世界の料理ショー」や本を見て手打ちのパスタ麵を作ったり、独学で料理を作ったりしていました。家族は驚いて「只者じゃないぞ」と褒めてくれましたね。

また、山に蕨やセリ、山菜などを採りに行って、わらを燃やし、重曹を入れて灰汁抜きに挑戦していました。食材を収穫し下拵えして調理し、家族に喜んでもらうことが面白いと感じていたんです。
将来はクリエイティブな仕事に就きたかったのですが、自分の親は厳しくて。進路の話になったとき、デザイナーを目指すなら東大の工学部か東京芸大に入れないと食べていけないだろうと言われました。当時はデザイナーになるための専門学校がなかったですし、そんな偏差値が高いような大学は無茶だと感じた一方で、料理人になれば食べて行けるだろうと思いました。
そこで「選択し決断する」ことを強く意識しましたね。いくつかの選択肢がある中で自分が選び、決めさせてくれたことはその後の人生にとても大きな影響がありました。

―イタリア料理を選択したのはどんな理由があるんですか?

「フレンチとイタリアンのどちらに将来性があるか」を考え、イタリア料理を選択しました。
当時「料理天国」というテレビ番組が流行っていて、「大阪あべの辻調理師専門学校」が料理監修をしていました。自分が調理師学校に入ったときは、2,000人いる学生の2/3程がフランス料理を選択していてフランス料理のシェフを目指す人が多く、僕もフランス語を学びながらアルバイトして勉強していました。
フランス料理の味は日本で食べる機会がなかったので美味しいと思った反面、その頃は重い味付けの料理でもあったので、日本人が毎日これを日常的に食べ続けるのは無理だろうなとも感じました。

一方でイタリア料理は魚介も豊富に使うし、味も重ねず素材を生かしたシンプルな味付けが特徴です。日本人にちょうど良い濃さ、料理の凝縮度があったので、形式は違うかもしれないけど、毎日食べても胃にもたれない。日本料理に似通ったものがあると思いました。1年に1回で満足というフレンチと、1週間に1回行ってもいいなあというイタリアン。行く頻度が、何十倍も違う。
また、料理人としてトップになるなら、何百倍の競争に勝つ必要がある。調理師学校では料理の勉強と同時に、レストラン経営を想定して学ぼうと思っていたので、いかに競争力をつけるかを考えていました。日本におけるイタリアンの歴史はまだ浅く、イタリア料理のシェフになりたいという人も当時一握りだったということもあり、イタリアンを選んだのです。

―山根シェフにとっては戦略的に選択した部分があったんですね。早い段階でイタリアに渡られてますが、当時はそこまで料理の修行でイタリアに行く方は少なかったですよね。

ちょうど留学の走りで、1984年に行ったときは50人位でしょうか。やっぱりデザインが好きだったから、メイドインイタリーのデザインに強い憧れがあって、いつか行きたい気持ちが強かったですね。
こう話すと、料理におけるデザインはある種「盛り付け」や装飾的な表現だと思われがちですが、僕は料理にとってのデザインは盛り付けではないと考えていて、お皿の上に綺麗な形を作ったり、情景を表すような盛り付けはあまり好きではないんです。
食べ物は「食べておいしい」ことが前提で、美味しくならないことは極力したくない。むしろ、「料理をデザインする」ことは、「素材をデザインする」こと。
素材を一番美味しい状態にするには、どういう調理が必要か。素材の良さや特徴の知識の上で調理し、組み合わせや味付け、香りづけを狙って作ることがデザインすることだと思います。美味しさを徹した結果、生まれてくるデザインが機能美であり、格好いいという感覚です。料理はアートではなくデザイン。できれば10年、20年先にも残っているようなものにしたい。コンセプトが骨太で、ちゃんと間違っていなければ、良いものは時代が変わっても支持されます。

盛り付けに凝るというのはできるだけしたくない。ただ、器にはこだわります。素敵なデザインのお皿なら見た目も美しくなり、料理の味を悪くしません。シンプルで素朴な食べ物というのは見た目は地味なので、器のデザインで魅せるということは大事だと思います。
今、うちで使っている食器はオリジナルで50~60種類くらいあり、カップやお皿も全部作っています。自分のイメージするものが形になるのはすごく楽しいし好きですね。

―10年、20年先にも残るメニュー作りを意識されているのですね。山根シェフのスペシャリテ「温かいポテトのティンバッロとキャビア」はまさに長年愛される一品ですよね。

考案して既に32~3年以上経ちました。年間で多い時は2万皿程作り、使うキャビアは250キロくらい。アップデートはしていますが、原型は同じです。
30年の流れの中で陳腐化しなかった料理ですが、できれば全部のメニューをそうしたいですよね。
イタリア滞在中、「キャビアの冷製のカッペリーニ」をスペシャリテにしていたお店(「グアルティエロ・マルケージ」)にいました。今では他のお店でも出される料理ですが、その店がオリジナルです。毎日すごい量のキャビアを使うので、何となくキャビアの良さが分かってきて、改めて、キャビアって美味しいと思い、自分もこれを売りにしたいと考えました。
気づいたのは、キャビアは美味しいモノに合わせ過ぎたらダメだということ。鮪や雲丹、鮑など美味しいものに美味しいものを重ねても、美味しさが倍にはならず、むしろ減ってしまう。
料理は、盆と暮れと正月を一緒にして出すなと思います。盆は盆、正月は正月の良さがあるし、詰め込んでも楽しさは倍にはなりません。それに、うちではキャビアやフォアグラにそこまで利益を乗せません。お客さんに喜んでもらい、得させないといけないと考えているので、キャビアで利益の上乗せはしてはいけないと思います。

「温かいポテトのティンバッロとキャビア」はキャビアをより堪能してもらうためのジャガイモ料理で、ある意味イタリアらしい料理なんですよ。近代イタリア料理には「Cucina Povera(クッチーナ・ポーヴェラ)」というテーマがあり、少量の動物性たんぱく質や美味しいもの、高価なもので野菜や炭水化物を食べようというものです。
ローマ帝国時代は贅を尽くした料理で、貴族の料理「Cucina Ricca(クッチーナ・リッカ)」が主流でした。当時のレシピを見ると美味しいものや甘いものを詰め込んでいて、現代人が食べたら重すぎるでしょう。キャビアやフォアグラに近いものもテーブルに一杯並べていただき、食後はテーブルごと変えるという豪華さです。
その後、フィレンツェのリナシェンテ(ルネッサンス)時代になると、商人が台頭しメディチ家により芸術や料理が発達したと言われています。大航海時代は香辛料などで稼ぎ、世界で初めてのカフェを作ったのもイタリアですが、栄華をそのまま保ったわけではなく、貧しい時代になってもそれが続いているんです。
ジャガイモの料理と考えると貧しいですが、そこにキャビアを載せて食べると一品として成立する。この料理は「世界で最も貧しい、最も贅沢な料理」という位置づけで、正式なイタリア料理の作法に則っているし、そこが面白いと思っています。コンセプトが良かったんでしょうね。
構成は完全に突き詰めてデザインされているので、誰かが真似をしても下手に手を加えたら味が落ちますね。なので、どんどん真似しろと。突き詰めていくことも楽しんですよ。

食材を最も美味しく食べる「最適調理」で、「ポンテベッキオ」ならではのイタリアンを

―シンプルを突き詰めていくということの難しさを感じます。シェフがこだわってされてらっしゃることと言えば、国産の食材について早くから注目されていた点が挙げられます。

お店を始めた頃は、市場に行って筍や柚子、鮎やフグなどの旬の食材が並んでいても、イタリアにないものを使うとイタリア料理じゃないと言われる、暗黙の了解がありました。
そもそもイタリア料理の定義はあってないようなもので、しいて言うならイタリア人が好んで食べるもの。イタリアで生産されたもののみで作るなら、イタリア料理はイタリアでしか作れないことになります。イタリア料理はあらゆる食材を使っていいと思っていますし、食材は国によって違うから、日本で料理するなら、日本の豊かな野菜や動物、魚を使うべきだと思います。例えばスダチはイタリアにないから現地のイタリア料理では使わないけど、似たような柑橘は使うので、もしあったら喜んで使うだろうなと思い僕は使っています。

しかし、それには食材の美味しさに対する理解と最適な調理が必要です。食事を作ることは、「調理」と「料理」の2つに分かれます。揚げる、焼く、切る、蒸すといった技術が「調理」で、どの国の料理でも世界共通語として存在しますが、素材を最適に調理しただけでは、イタリアの料理とは言えません。
「料理」は調理済み素材を組み合わせ、香りや味を調整して一品に仕上げること。そこに力量や個性が入ります。国籍、地方性やパーソナリティがあり、イタリア人の精神とか価値観が入ればイタリア料理となります。最適調理を目指して、調味料を変えたら日本料理にもなりうるけれど、イタリア料理にすることで、際立ってくる。

仕上げる料理の部分に「イタリア料理」があるんですよ。大阪人は大阪の個性があり、それがバックボーンとしてある僕の個性を通し、イタリア人のメンタルを組み合わせて出た答えが「ポンテベッキオの料理」です。
だから日本人だけでなく、イタリア人が食べて「お前の料理はほぼ全てイタリアに同じものが無いけどイタリア料理だね」と感じてもらいたいんです。最終的に、イタリア人的な見方で客観視した時に、美味しいイタリア料理であればいいと考えています。

これからの食の未来に向けて

―医療従事者に対するお弁当支援をされていましたが、実際にシェフが取り組まれて感じたことをお聞かせください。(※「全日本・食学会」が手掛ける 医療従事者と生産者、飲食店の支援活動)

この職業に就く人間として、お役に立てて嬉しいです。お弁当を作るだけでそんなに喜んでいただけるなら、職業冥利に尽きます。全国122店舗が参加し、病院は京都、大阪、岐阜、愛知、東京、神奈川、長崎、北海道の37施設に配りました。
賛同した店舗の皆で協力し、1店で1~2回ずつ作っても30日回してできますし、最前線で頑張っている方に感謝の気持ちをお返しできたので、作れたこと自体が嬉しいです。

普段お弁当は作らないですし、予算の制約と衛生を守る中で作るのですが、こういうことをやる時は大体1番手だったりします。「ポンテベッキオ」の山根の名前でやるからには、さすがだね、楽しみだ、嬉しい、と喜んでもらえるお弁当にしたいと思いました。

―シェフの温かみを感じるエピソードですね。改めて「食」の持つ力の強さを感じます。これまで多くの料理人を育成された山根シェフですが、これからのレストランや料理に携わる人に求められることについて、お考えをお聞かせください。

コロナ禍で「自分たちがどう変わらないと生き残っていけないか」を常に問いかけられ、メニューや研究も含めて試行錯誤した1年でした。コロナが終わったとして、結局元の市場に戻らなかったら今と一緒ですし、その頃には助成金などは出ないでしょう。
経済的・効率的なことでいうと、今のままではレストランは生き残れません。皆が来やすい繁華街の一等地でお店を運営するには家賃が高く支払いが多い。料理人やサービスの人件費も考え、生産者が生き残るために食材を使わないといけないけれど、こだわりの食材は高い。料理の値段は徐々に上げていく必要があります。
反面、毎日何万円という食事をする人ばかりではなく、タッチパネルで人件費や製造コストが抑えられたファストフードに近いようなお店が主流になるだろうし、飲食店は両極化するしかないんですよ。
それに飲食業界を目指す人、特にサービスマンになる人が減少しています。何とかしないとカウンターの店だらけになって「レストラン」が存続できなくなります。1人でサービスと料理をされているお店もありますが、カウンターのお店では未来がないと思っています。

僕の店では沢山の料理人を抱え、修業して独立したメンバーは今年だけで4人いますし、勤続年数が長いメンバーも多くいます。そういう人は次のお店のオーナーシェフになる可能性がありますが、2~3人で始めても、そこから独立する人は少ない。雇ってもすぐ人が辞めてしまう。
今は僕らのような大規模なレストランを運営している人が多くいるから、沢山の料理人が独立していきますが、あと10年位したときはどうでしょう。
飲食店は10年続く店は少ない。チームで動ける人も少ない。1人で働いている人は人を育てられないので、ある意味飲食業界の危機だと思います。

僕らはチームなので、お客様の要望に合わせて調整ができる。だから調理のメンバーが多いのですが、それがレストランの楽しさだから、譲れない点ですね。僕らしかできないリストランテの良さは何かを明確にブラッシュアップして見せていくしかないと思います。
これからは、コロナ禍が終わってからも必要な店なのか再認識されるときがくると思います。必要とされてないものは絶対になくなる。僕らも生き残れるとは限らないくらい厳しい世界ですが、美味しいものを食べるというのは本当に楽しいことなので、そのために僕らが提供できることを突き詰めていきたいですね。

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【プロフィール】
山根 大助
1961年大阪生まれ。84年渡伊、ミラノ「グアルティエロ・マルケージ」をはじめ各地で研鑽。86年に帰国後、大阪本町橋に「PONTE VECCHIO」を開店。1999年、2002年の2回ガンベロロッソ誌において日本のイタリアン最高点を獲得。2004年イタリア政府よりカヴァリエーレ章を叙勲。2020年度版ゴエミヨジャパンでイタリアンの最高得点獲得。2020年農林水産省主催料理マスターズブロンズ賞受賞。
現在、辻調卒業生組織コンピトゥムの会長、関西食文化研修会コアメンバー、全日本・食学会常任理事を務める。テレビ出演、著書多数。近著に「全力イタリアン」。

【編集後記】

言葉の端々に「お客様に得させたい、喜んでもらいたい」と語る山根シェフに、ユーザーファーストの精神を感じました。日本食材を調理しイタリア料理として提供される「ポンテベッキオ」流の料理は、楽しいひとときを提供してくれることでしょう。

イタリア料理

ポンテ ベッキオ

地下鉄堺筋線 北浜駅 1B出口直結

15,000円〜19,999円

「極みの店」をInstagramでも紹介中!
ぜひチェックしてみてください。
https://www.instagram.com/kiwamino/

Airi Ishikawa

一休コンシェルジュ メディア事業部長。高級旅館のお取り寄せが最近のマイブーム。インタビューを中心に、地産地消や、生産者に近い距離で食材と向き合う極みのシェフがいる店をご紹介します。
【MY CHOICE】
・最近行ったお店:祇園 さゝ木 / Crony / のぐち 継 / 津の守坂 小柴
・好きなお店:ベージュ・アラン・デュカス / ブラマソーレ / 美伶
・自分の会食で使うなら:鮨きむら / 中国飯店 富麗華 / エディション・コウジ シモムラ
・得意ジャンル:フレンチ / バー
・好きな食材: 魚卵

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