インタビュー|

「うなぎ時任」時任恵司氏に聞く、伝統と革新の技が光る『新時代』のうなぎ料理

2018年6月、美食の街 麻布十番に誕生した「うなぎ時任」。伝統的なうな重から西洋の文化を取り入れた斬新なうなぎ料理まで、うなぎの概念を覆される逸品に出会えると話題の“うなぎフレンチ割烹”です。
今回はうなぎ一筋20年の店主 時任恵司氏に、うなぎの魅力と今後挑戦したいことについてお話を伺いました。

うな重の美味しさに感動してうなぎの世界へ

―まずは、料理人を志したきっかけがあれば教えてください。

きっかけは、母親が留守のときに父親が料理を作ってくれたことです。男でも料理していいんだって思って、それからキッチンに立つようになりました。両親の手伝いから始まり、小学生のときには冷蔵庫にある食材で料理をしていましたね。

―中学卒業後にうなぎの老舗「野田岩」に入店されていますが、中学生にとって馴染みの少ないうなぎと、どのように出会ってこの世界に入ることを決められたのですか。

日本料理やお寿司屋さんに憧れ、将来は料理人になろうと中学1年生の夏休みに修業先を探していて、その中の一つが「野田岩」でした。当時の僕は野田岩がうなぎの名店であるとは知らず、面接の時に出してくれたうな重の美味しさにとにかく感動したのを覚えています。そこで直感的に「うなぎをやりたい!」と思い、卒業したら働かせてほしいとその場でうなぎ職人になることを決めました。

―各店の料理長を歴任後、パリ店へ移られていますが、日本とパリでそれぞれ学んだことや感じた違いなどはありますか?

1番感じたのは文化の違いです。日本の飲食店は日曜日も営業していますが、パリはお休みのところも多いし、昼の休憩時間も長い。でも、その時間にできることがたくさんあるんですよね。あちこちに美術館があるので休憩時間に行ったり、少し歩いて世界遺産に触れたり。さまざまなものを自分の目で見て学ぶことができた、貴重な体験でした。

うなぎの新たな可能性を求めて挑戦の日々
―日本に帰国し「うなぎ時任」をオープンされて6月で1周年となりますが、感じる課題や想いなどがあれば教えてください。

この1年は、本当に課題ばかりです。うなぎといえばうな重が基本なので、最初は「うなぎの洋風料理」というコンセプトやコース料理の提供を知ってもらうことに苦労しましたね。

日本料理やフレンチ、お寿司屋さんなど、みんな時代に合わせて進化していく中、うなぎは蒲焼文化が出てきて200年が経ってもほぼ変わっていない。そこで僕が今までのうなぎ屋さんと同じスタイルにしてしまったら、何も変わらないと思ったんです。

王道の方がお客さんも来やすいかもしれない。けれど僕は、パリで学んだものをひっくるめたお店をやりたいと思いました。うちは新しい店で守るものがないので、ブレーキをかけずに進むしかないだろうと。

―「うなぎの赤ワイン煮」や、昔から食べ合わせが悪いとされている梅との組み合わせなど斬新なスタイルが特徴的ですが、どのように新しいものを作り上げているのですか?

梅とうなぎの食べ合わせは単なる迷信です。でもうなぎの世界は、そういう先入観や迷信が強いジャンルだと思っています。うなぎ屋さんもお客さんも、この枠からなかなか出ない。だからその壁を突破するために、思いっきりやろうと思いました。

しかしこれまでのうなぎ文化のことは常に頭にあって、僕はその文化を残したいからこそ、このスタイルを選んだと思っています。うなぎは蒲焼が一番の主であり、土台です。その土台を大切にしながら、今の時代にあったものを作っていきたい。

もちろん自身で研究もしますし、うなぎに関しては化学分析にもかけています。あとはいろいろなものを食べたり見に行ったりして、面白いなと思うことはすぐに取り入れます。どうしようかなと迷っている間に出しそびれてしまうこともあるので、その都度思ったときに形を変えて料理を出すことも必要です。

―仕入れについてのこだわりや、調理のときに心掛けていることがあれば教えてください。

今は天然うなぎと、愛知県の三河のうなぎ、鹿児島県の横山さんのうなぎを仕入れています。養殖技術も素晴らしくて、うなぎも日々進化している。3種類それぞれの良さがあるので、僕も野田岩のときに培った技術をさらに進化させて、そのうなぎに合った仕込みをしています。その分、仕込みの手間は通常の2~3倍です。

素材自体もそうですが、うなぎの8割は作り手の気持ち。うなぎやお客さんに対して真剣に向き合っているかによって、味は絶対に変わります。あとは昼と夜では味覚も違うし、お茶かお酒でも楽しみ方は変わる。

さらに出身地で味の好みも違うので、コースを出している2時間の中でお客様の好みをくみ取って、〆の蒲焼に反映させています。
それこそが、僕が全席を見ることができるカウンター8席の醍醐味でもありますね。

うなぎの魅力とオープン2年目にかける想い
―今年でうなぎ一筋20年ですが、時任さんが思う「うなぎの魅力」とはなんでしょうか。

うなぎって本当に難しい。毎日蒲焼を焼いていても、今日より明日はもっとうまく焼きたいと思うし、簡単だと思ったことは一度もありません。

当然なのですが、天然でも養殖でもうなぎには個体差がある。すべてが蒲焼や白焼きに合うわけではないので、その場合は違う調理方法で提供しています。うなぎ自体が限りある貴重な素材なので、こちらが合わせて調理する必要があると思うし、難しい食材でコースを組み立てているからこそ、もっといいものを作りたいっていう気持ちにさせてくれます。

―2年目を迎えるにあたり、挑戦したいことや目標があれば教えてください。

目標や夢は本当にたくさんあります。あれやりたいな、これやりたいなとか、常に頭の中は夢の国です。ただこの1年で土台を作って一歩一歩進んできたので、急に何かをやるというよりも、この1年が嘘にならないようにちゃんとここで足固めをしたいです。
2年目は、お店のことやうなぎのことをもっと知ってもらうために、何ができるのかを考えていきたいですね。

資源問題もすごく重要視していて、僕ら職人は素材を守ることも大事な仕事だと思っています。夏に土用の丑の日がありますが、本来うなぎは秋~冬が旬。いつ食べるかは自由ですが、みんなが季節関係なく食べてくれるようになったら嬉しいです。冬に食べる人が少ないなら、冬に食べたいと思ってもらえる料理を考える努力も必要。うなぎを残していくためにはどうしたらいいか、料理人である以上考え続けていきたいと思います。

にこにこと、明るい笑顔で楽しそうに話してくださる姿が印象的な時任氏。しかしその胸の中には、伝統を守りながら革新を続けることへの熱き想いを感じました。
「うなぎ時任」で、新しいうなぎ料理を体験してみませんか。

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時任 恵司 プロフィール

1984年生まれ、埼玉県秩父市出身。
中学卒業後、創業200年以上続くうなぎの名店「麻布野田岩」に入店し15年間修業を積む。その後各店の料理長を勤め、うなぎ屋という日本文化の枠を越えてパリへ渡航。ヨーロッパのさまざまな食や文化を学び、2018年6月に「うなぎ時任」をオープン。

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うなぎ

うなぎ時任

都営地下鉄大江戸線 麻布十番駅 徒歩6分

20,000円〜

アクセス
住所 東京都港区麻布十番2-5-11 AZABUMAISON201

misaki

一休.comレストランの元営業。300店舗近いレストランを担当したのち、もっと世の中に宿やレストランの魅力を発信したい!という思いから、一休コンシェルジュの編集に。よく食べ、よく遊び、よく働くがモットー。全国各地を飛び回り、インタビュー記事を通してシェフの熱き想いをたくさんお届けできるよう日々奮闘中です。

【MY CHOICE】
・最近行ったお店:GINZA chez tomo/LATURE
・好きなお店:L’Octave Hayato KOBAYASHI
・自分の会食で使うなら:六雁
・得意ジャンル:フランス料理/日本料理
・好きな食材:赤身肉/鴨/海老/いくら

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